企業が社会貢献のために寄附を行う場合、選択肢は「企業版ふるさと納税」だけではありません。一般寄附金、指定寄附金、特定公益増進法人(認定NPO法人を含む)への寄附、そして企業版ふるさと納税の4つの類型があり、税負担の軽減効果には約3割から約9割まで、3倍もの差が生じます。「どの形で寄附すべきか」は、CSR担当者が稟議の最上流で必ず向き合う課題です。
本ガイドでは、国税庁タックスアンサー(No.5281・No.5283・No.5284)と内閣府の制度資料を一次情報として、4類型を「実効的な税軽減率・対象先・損金算入の枠・使う別表・適用期限」の5指標で横断比較します。これまでバラバラに解説されがちなこのテーマを、CSR・経理・財務担当者が1枚の地図で判断できるよう整理しました。
※本記事は内国法人(普通法人・中小法人)が支出する寄附金の法人税務を前提にしています。個人・個人事業主の寄附金控除(所得控除・税額控除)は対象外です。
このガイドの結論(先に要点)
- 税効果だけなら企業版ふるさと納税が圧倒的:4類型で唯一「税額控除」を持ち、損金算入と合わせて最大約9割まで軽減できます。他の3類型は損金算入のみで、実効的な軽減は約3割にとどまります
- ただし対象先に強い制約があります:企業版ふるさと納税は、内閣府認定の地域再生計画を持つ自治体に限られ、本社所在地の自治体は対象外です。寄附先の自由度は「一般寄附金 > 認定NPO等 > 企業版ふるさと納税」となります
- 損金算入限度額の差:資本金等1億円・所得5,000万円のモデル法人で、一般枠は約37.5万円、特定公益増進法人の特別枠は約175万円(当サイト試算)。指定寄附金と企業版ふるさと納税(自治体寄附分)は全額損金で限度額なし
- 適用期限:企業版ふるさと納税は令和9年度末(2028年3月31日)までという時限措置です。他の3類型は恒久制度として運用されています
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法人寄附の4類型 × 5指標 一覧表
まずは全体像をつかみましょう。同じ「寄附」でも、税法上では類型によって損金算入の扱いが異なります。企業版ふるさと納税だけが、損金算入に加えて税額控除という特例を受ける仕組みです。
| 寄附の類型 |
実効的な税軽減率(目安) |
主な対象先 |
損金算入の枠 |
使う別表 |
適用期限 |
① 企業版ふるさと納税 (地方創生応援税制) |
最大約9割 損金算入+税額控除最大6割 |
内閣府認定の地域再生計画を持つ地方公共団体 ※本社所在地は対象外 |
全額損金(自治体寄附)+税額控除 |
別表六(二十四) +別表十四(二) |
令和9年度末 (2028/3/31)まで |
② 指定寄附金 (国・地方公共団体・財務大臣指定) |
約3割 全額損金(実効税率分) |
国・地方公共団体、財務大臣が指定したもの(日赤の災害義援金等) |
全額損金算入(限度額なし) |
別表十四(二) |
恒久 (指定の範囲内) |
| ③ 特定公益増進法人・認定NPO法人 |
約3割 特別枠の範囲で損金 |
独立行政法人・学校法人・社会福祉法人・公益社団/財団法人・認定NPO法人 等 |
特別損金算入限度額(一般枠とは別枠) |
別表十四(二) |
恒久 |
④ 一般寄附金 (上記以外) |
約3割 一般枠の範囲で損金 |
一般社団・任意団体・営利企業など上記以外のすべて |
一般損金算入限度額 |
別表十四(二) |
恒久 |
※「実効的な税軽減率」は損金算入による軽減を実効税率約30%(中小〜中堅法人を念頭)として概算したもの。企業版ふるさと納税は損金算入(自治体への寄附は全額損金)に税額控除最大6割が加わるため最大約9割になります。法人税額が小さい場合は税額控除を使い切れず9割を下回ることがあります(控除上限の詳細は 控除上限ガイド)。
※別表について:②③④の損金算入はいずれも別表十四(二)で計算します。①企業版ふるさと納税は、これ(自治体寄附の全額損金)に加えて税額控除の別表六(二十四)を使う点が他類型と異なります。実際の数値は各社の所得・税額により変動します。
なぜ企業版ふるさと納税だけ「約9割」なのか
②〜④はいずれも損金算入のみの制度です。損金算入とは、寄附額を費用として所得から差し引く扱い。軽減効果は「寄附額 × 実効税率(約30%)」=おおむね3割にとどまり、残り7割は実質的な企業負担となります。
これに対し企業版ふるさと納税は、地方公共団体への寄附として全額が損金算入(≒3割軽減)され、さらに特例として法人住民税・法人事業税・法人税で最大6割の税額控除が上乗せされます。合計で最大約9割が税で戻り、実質負担は寄附額の約1割まで下がります。税額控除の内訳と上限は 控除上限の早見表ガイド で詳しく解説しています。
寄附1,000万円・3類型の実質負担シミュレーション(実効税率30%で概算)
- 企業版ふるさと納税:実質負担約100万円(約9割軽減)
- 認定NPO法人・指定寄附金:実質負担約700万円(約3割軽減)
- 差額は約600万円。同じ社会貢献でも「器」の選び方で手残りが大きく変わる
損金算入限度額の計算(②③④の上限)
②の指定寄附金は全額損金として扱われ、限度額の制約はありません。一方、③の特定公益増進法人等や④の一般寄附金には、それぞれ損金算入できる上限額があり、それを超える分は損金不算入(課税対象)になります。国税庁が提示する計算式は以下の通りです。
一般寄附金の限度額 = {(期末資本金等の額 × 当期の月数 ÷ 12 × 2.5/1,000)+(所得の金額 × 2.5/100)} × 1/4
③ 特定公益増進法人・認定NPO法人への寄附の特別損金算入限度額(国税庁 No.5283)
特別限度額 = {(期末資本金等の額 × 当期の月数 ÷ 12 × 3.75/1,000)+(所得の金額 × 6.25/100)} × 1/2
※③の特別枠は④の一般枠とは別枠で利用可能。特別枠を使い切った後も、残りの寄附は一般枠の対象となります。資本金等を有しない法人の場合は、「所得の金額 × 6.25/100」のみで計算します。
モデル法人での試算(当サイト独自計算)
資本金等の額1億円・当期所得5,000万円・事業年度12か月の法人を想定し、上記の式に代入してみましょう。
| 枠 | 資本金基準 | 所得基準 | 限度額(年間) |
| ④ 一般寄附金(No.5281) |
1億円 × 2.5/1,000 = 25万円 |
5,000万円 × 2.5/100 = 125万円 |
(25+125)万 × 1/4 = 約37.5万円 |
| ③ 特定公益増進法人等の特別枠(No.5283) |
1億円 × 3.75/1,000 = 37.5万円 |
5,000万円 × 6.25/100 = 312.5万円 |
(37.5+312.5)万 × 1/2 = 約175万円 |
このモデル法人の場合、特定公益増進法人への寄附は最大約175万円まで損金算入可能(一般枠とは別枠)。一般団体への寄附は約37.5万円までが限度です。超過分は課税対象になります。一方、企業版ふるさと納税と指定寄附金は全額損金で限度額の心配がなく、企業版は税額控除まで適用される——この違いこそが「器」選びの鍵です。具体的な記入方法は、別表六(二十四)の書き方ガイド と 仕訳・会計処理ガイド をご参照ください。
「器」の選び方:4つの判断軸
税効果を最大化するには企業版ふるさと納税が最適ですが、支援先や目的によっては他の選択肢も有効です。以下の順で検討すると、整理しやすくなります。
- 支援したい先が内閣府認定の地域再生計画を持つ自治体か?
Yesなら企業版ふるさと納税が最も有利(最大9割の軽減)。ただし本社所在地の自治体は対象外です。企業版ふるさと納税とはで全体像を確認してみてください。
- 支援先が特定のNPO・学校・社会福祉法人か?
認定NPO法人や特定公益増進法人であれば、③の特別枠(約3割軽減)が活用できます。寄附先の選択肢は広いのが特徴です。
- 国・自治体・財務大臣指定の募金(災害義援金など)か?
②の指定寄附金で全額損金。詳細は災害・防災CSRガイドも併せてご覧ください。
- 中長期的に自社主導の社会貢献の仕組みを構築したいか?
公益財団法人の設立という選択肢もあります。初期費用や維持コストを考慮した上で、検討が必要です。
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よくある質問(FAQ)
Q. 自治体に寄附すれば、企業版ふるさと納税でなくても全額損金になりますか?
国や地方公共団体への寄附は②の指定寄附金として全額損金算入可能です。ただ、税額控除は適用されないため、実質的な軽減効果は実効税率分(約3割)にとどまります。同じ自治体でも、内閣府認定の地域再生計画に基づく企業版ふるさと納税を使えば、税額控除が加算され、最大で約9割まで軽減できるのです。
Q. 認定NPO法人への寄附と企業版ふるさと納税はどちらが得ですか?
税効果の観点では企業版ふるさと納税が圧倒的です。認定NPO法人への寄附は③の特別枠で約3割の軽減にとどまりますが、企業版ふるさと納税は損金算入に加え、税額控除で最大約9割の軽減が可能です。寄附額1,000万円の場合、実質負担は約700万円 vs 約100万円と、大きな差が出ます。ただし、支援先の選択肢の自由度はNPO寄附の方が高いです。用途に応じて使い分けるのが現実的でしょう。詳細は近日公開の比較記事でご紹介します。
Q. 特定公益増進法人かどうかは、どこで確認できますか?
独立行政法人、学校法人、社会福祉法人、公益社団・財団法人、認定NPO法人などが該当します。寄附先から「特定公益増進法人である旨の証明書(写し)」を入手し、別表十四(二)に添付して申告します。所轄庁によって類型が異なるため、発行可否は寄附先に直接確認するのが確実です。
Q. 企業版ふるさと納税の「最大約9割」は必ず実現しますか?
各税目の控除上限があるため、法人の法人税額などによっては9割に届かないケースもあります。特に法人住民税法人税割額の20%が実務上の上限の核心です。詳しくは 控除上限の早見表ガイド と 経理・財務QA をご確認ください。
Q. 企業版ふるさと納税はいつまで使えますか?
令和7年度税制改正で、令和9年度末(2028年3月31日)まで延長が確定しています。時限措置のため、期限後の戦略も検討しておくとよいでしょう。申請期限・延長ガイド もご参照ください。
まとめ
法人の寄附は「①企業版ふるさと納税 ②指定寄附金 ③特定公益増進法人・認定NPO ④一般寄附金」の4タイプに分類でき、税効果では企業版ふるさと納税が唯一の税額控除付きで、最大約9割の軽減が実現します。ただし、対象となる自治体や本社所在地、期限(令和9年度末まで)に制約があるため、支援先や目的に応じて最適な「器」を選ぶことが実務のポイントです。
自社の所得や寄附額に応じた税軽減額は、寄附額シミュレーターで即座に試算可能です。寄附先の絞り込みには AI診断 もご活用ください。稟議資料作成には 役員説明ガイド と メリット整理ガイド が便利です。