サプライチェーン地域の耕作放棄地を再生したい。TNFD/ネイチャーポジティブ開示で具体的施策を書きたい。食料安全保障に貢献するCSR寄付を稟議に通したい——そんなCSR担当者に向け、企業版ふるさと納税でリジェネラティブ農業(再生型農業)に取り組む際の制度・スキーム・国内外事例を体系化したガイドです。
この記事でわかること
- リジェネラティブ農業と有機農業・慣行農業の違い(TNFD/ネイチャーポジティブとの接続)
- 寄付金が単発で消えない仕組み: Perpetual Purpose Trust型SPC・受益者=地元農家の設計(OGC・Patagonia事例)
- 制度レバレッジ: 基盤整備+3割非農用地化(土地改良法)の活用法
- 該当する全国の事業(武豊町 ほか、localgovs.net独自集計)
- 稟議で経営層・財務・IRに刺さるキラーフレーズ3本
※ 本記事は localgovs.net 運営者(株式会社トクイテン)が、自社が武豊町と取り組む再生型農業事業を含む全国の該当案件を中立に整理したものです。運営方針・編集ポリシーはこちらをご覧ください。
1. リジェネラティブ農業とは何か
リジェネラティブ農業(Regenerative Agriculture、再生型農業)は、「土壌・生物多様性・水循環を“再生”させる」という結果(アウトカム)を核とする農業の概念です。1970年代に米Rodale Instituteで提唱され、近年は気候変動・食料安全保障・ネイチャーポジティブ経済の文脈で世界的に注目されています。
有機農業・慣行農業との違い
| 項目 | 慣行農業 | 有機農業 | リジェネラ農業 |
|---|---|---|---|
| 核となる規定 | 生産性最大化 | 「化学合成物質を使わない」(インプット規定) | 「土壌・生態系を再生する」(アウトカム規定) |
| 化学肥料・農薬 | 使用前提 | 不使用 | 削減・状況に応じて使い分け |
| 主な手法 | 単一作物・大量灌漑 | 有機質肥料・輪作 | 不耕起・カバークロップ・統合家畜管理・アグロフォレストリー |
| 気候変動への寄与 | 排出源 | 中立〜削減 | 炭素固定(カーボンファーミング) |
| 開示フレームとの接続 | — | GRI・SDG2 | TNFD・IFRS S2・ネイチャーポジティブ |
国際的な潮流
- 2030年までに世界の農地の20%をリジェネラに転換(FAO推計、Rodale Institute目標)
- Patagonia Provisions・Nestlé・PepsiCo・General Mills等が自社サプライチェーンで導入推進
- 日本では農林水産省「みどりの食料システム戦略」(2021年)で2050年までに有機農地25%目標。リジェネラはその上位概念として位置付け可能
2. なぜ「企業版ふるさと納税 × リジェネラ農業」なのか
CSR担当者がリジェネラ農業への寄付を選ぶ理由は、単なる「環境貢献」を超えた4つの戦略的合致点があります。
① TNFD・ネイチャーポジティブ開示との直接接続
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のLEAPアプローチ(Locate / Evaluate / Assess / Prepare)の最終段階“Prepare”の具体的施策として、リジェネラ農業への寄付は最適です。記載文例:
「当社は自然関連依存・インパクト評価に基づき、優先対応領域として『サプライチェーン地域の再生型農業支援』を特定。具体的施策として○○県○○市の耕作放棄地再生事業(リジェネラ農業基盤整備)に○○万円を企業版ふるさと納税で寄付し、約○haの農地再生に貢献しています。」
詳しいTNFD開示への落とし込み方は統合報告書・サステナビリティレポート記載ガイドを参照。
② 食料安全保障 × 人的資本経営の両立
農林水産省の食料自給率(カロリーベース)は38%(令和5年度)。耕作放棄地は全国で42.3万ha(東京都の約2倍)。リジェネラ農業への寄付は、サプライチェーン地域の食料安全保障に直接寄与しつつ、社員研修・人材交流の機会としても活用可能。教育・こども × CSR ガイドの人的資本経営の文脈とも接続します。
③ 寄付の最大9割が税軽減(実質負担1割)
企業版ふるさと納税の最大の経済的メリット。同じ社会貢献額を通常の寄付(一般寄附金の損金算入限度額あり)で行うより約6倍効率的に実施できます。寄附額シミュレーターで自社の実質負担を即試算可能。
④ 物理的な地域資産が残る
後述の基盤整備+3割非農用地化を組み合わせると、寄付金が物理的な耕地・施設として地域に残り、統合報告書での開示が映えるケーススタディ素材になります。
3. 寄付金が永続する仕組み: Perpetual Purpose Trust型SPC
従来の企業版ふるさと納税は「自治体が単発で寄付を受け取り、年度予算として消化」する形が一般的でした。一方、近年は寄付金が単発で消えず地域に永続的に残る新しいスキームが登場しています。海外のSteward Ownership思想を日本農業に応用したものです。
基本構造
┌──────────────────────────────┐
│ 信託(受益者:地元農家) │
│ ※新設会社の株式を100%保有 │
└──────────────┬───────────────┘
│ 配当・運用益の分配
▼
企業 ──①寄付──▶ 自治体 ──②交付──▶ 運営パートナー ──③業務委託──▶ 農業振興SPC(新設)
(経営の専門性) │
├─▶ 耕作放棄地管理・作業代行・営農型太陽光
└─▶ 資産運用 → 運用益(再投資・分配)
3つの設計ポイント
- 受益者=地元農家: 寄付の便益が地域に固定。企業への利益供与禁止原則とも整合(寄付企業は受益者ではない)
- 三権分立: 運営パートナーが経営(専門性)、信託が株主(保全)、農家が受益者(果実)
- 自走可能性: 寄付金で事業を立ち上げ、SPCの運営益・資産運用益で永続化。寄付企業の継続寄付に依存しない
4. 海外の Steward Ownership 先行事例
このスキームは思いつきの仕組みではなく、海外で確立されつつあるSteward Ownership(スチュワード・オーナーシップ)思想の応用形です。寄付企業の意思決定者に正統性を示す上で、以下の3事例は必須の引用材料です。
事例1: Organically Grown Company(OGC)
オレゴン州の有機農産物流通会社。2018年に従業員・生産者所有のS-Corp+ESOPから、Sustainable Food and Agriculture Perpetual Purpose Trust(SFAPPT)に株式を譲渡。信託は法的にミッション遂行義務を負い、会社を売却することは禁じられています。5つのステークホルダー(従業員・生産者・顧客・コミュニティ・投資家)を設定し、議決権株は信託が保有。「四重ボトムライン(人・地球・目的・利益)」を掲げる。
事例2: Patagonia
2022年9月、創業者シュイナード氏が同社の議決権株2%をPatagonia Purpose Trustに、無議決権株98%をHoldfast Collective(501(c)(4)非営利)に譲渡。事業に再投資されない余剰利益(年間約1億ドル)はHoldfastに配当され、自然・コミュニティ保護に使われます。シュイナード氏の名言「Earth is now our only shareholder」は、寄付企業のトップに刺さるフレーズ。
事例3: Carl Zeiss Foundation / Bosch(ドイツ)
1889年創設のCarl Zeiss Foundationが Zeissの唯一の所有者であり、会社は売却不可、利益は再投資か公益寄付に限られる。Bosch、Novo Nordisk、John Lewis、Mozillaなども同様のSteward Ownership構造を採用。ドイツで100年以上機能している制度的安心感を寄付企業に提示できます。
5. 制度レバレッジ: 基盤整備+3割非農用地化
SPC設計と組み合わせると圧倒的に強くなるのが、土地改良法に基づく非農用地区域の設定(最大3割)です。農林水産省の通知に明記されています:
非農用地区域の面積を合計した面積の限度として(中略)いかなる場合においても、その土地改良事業の施行地域の面積の3割をこえることがないよう措置されたい。
— 農林水産省構造改善局長通知
仕組みの例(5ha集約 → 3割転用)
5ha以上の農地を集約 → 基盤整備(ほ場整備)→ 3割(1.5ha)を非農用地区域として転用
├─ 7割(3.5ha):大区画化された優良農地(有機・自動化栽培)
└─ 3割(1.5ha):非農用地区域として活用
├─ 営農型太陽光・蓄電施設(SPC収益源)
├─ データセンター・IoT基地局(データファクトリーの物理拠点)
├─ 直売所・加工施設・物流拠点
├─ 研修・宿泊・体験施設(寄付企業のベネフィット)
└─ 一部宅地化(異種目換地で地権者の宅地ニーズに対応)
農地中間管理機構関連農地整備事業の活用
市町村が実施主体(または中山間地域は5ha以上)、農地バンク15年以上借受け等の要件を満たす場合、農家負担ゼロで基盤整備が可能。寄付企業のCSR担当者が「自社の寄付金で農家負担なしの基盤整備が実現する」と稟議に書ける制度設計です。
6. 全国の該当事業(localgovs.net独自集計)
localgovs.netに登録された全国2,275事業のうち、内閣府25分類の農林水産業(コード22)に該当する事業は200件超。そのうち「リジェネラ農業」「再生型農業」「耕作放棄地再生」「基盤整備」を明示的に掲げる事業は十数件規模です。
先進事例
- 愛知県武豊町: 株式会社トクイテンと連携した武豊モデル(再生型農業+PPT型SPC+データファクトリー)。当サイト運営者が関与する事業のため、本記事では「最も先進的に取り組む事例の一つ」として詳述
- 北海道・東北の中山間地域: 耕作放棄地解消+営農型太陽光の組み合わせ事例
- 中国地方: 棚田再生+ブランド米化の事例
該当する全国の事業を絞り込んで探す: 事業一覧 / 農林水産業分野
7. 寄付企業が得られる5つのベネフィット
| ベネフィット | 具体的内容 |
|---|---|
| ① 経済的合理性 | 実質負担1割で社会貢献額の6倍以上効率的(一般寄附金との比較) |
| ② 実証フィールド確保 | 自社の農業ソリューション(IoT・農業機器・バイオスティミュラント等)の検証の場として活用 |
| ③ データアクセス権 | SPCに蓄積される再生型農業の実証データ(匿名化・集約化したもの)への優先アクセス |
| ④ 視察・社員研修受入 | 経済的利益供与禁止の範囲内で、現地視察・社員ボランティア・キャリア研修の場として活用 |
| ⑤ ケーススタディ素材 | 統合報告書・サステナビリティレポートでの開示素材。TNFD/IFRS S2/SDG2との接続が容易 |
8. 稟議で使えるキラーフレーズ3本
- 「Patagonia型のPerpetual Purpose Trust構造を、日本の食料安全保障に応用した日本初の取り組みです」
— 海外の確立された型であることを示し、稟議の心理的ハードルを下げる - 「寄付額1,000万円のうち実質負担は約100万円。残り900万円は税軽減で戻り、その1,000万円が地域の土地・施設・データとして物理的に残ります」
— 経済合理性と永続性を一文で訴求 - 「TNFD LEAPアプローチの“Prepare”段階の具体的施策として、統合報告書・サステナビリティレポートに記載できる構造を持っています」
— IR・サステナ部門のニーズに直結
稟議に向けた次の3ステップ
- 寄附額シミュレーターで実質負担を試算(所得額×寄附額の2入力で即可視化)
- 事業一覧(農林水産業分野) から該当事業を絞り込み
- 財務部門への説明ガイド・役員会プレゼンガイド・統合報告書記載ガイド で社内説得の準備
関連リソース
- CSRガイドシリーズ:
- CSR × 農業 完全ガイド(既存・本記事のテーマと最も近い)
- CSR × 生物多様性・ネイチャーポジティブ ガイド(TNFD整合)
- CSR × 気候変動 ガイド(カーボンファーミング文脈)
- 社内説得シリーズ:
- 制度・実務:
- 企業版ふるさと納税とは
- 経済的利益供与の禁止行為(SPC設計時の必読)
- 別表の書き方・記載例
- 会計処理・仕訳ガイド
- アグリハブ index に戻る: アグリ専門ハブ
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