「ふるさと納税」には、個人が行うものと法人(企業)が行うものの2つの制度があります。名称は似ていますが、所管する省庁も仕組みも大きく異なります。この記事では、CSR担当者が稟議で押さえるべき違いを整理します。

CSR担当者が知るべき3つの差異
  • 企業版は返礼品なし・最大9割税軽減——社会貢献と節税を同時に説明できる
  • 寄附先は内閣府認定の地方創生事業に限定——SDGs/ESG文脈で使いやすい
  • 最低10万円・本社所在地への寄附不可——個人版とは別物として稟議を組み立てる

制度の比較表

比較項目 個人版ふるさと納税 企業版ふるさと納税
正式名称 ふるさと納税制度 地方創生応援税制
所管省庁 総務省 内閣府(地方創生推進事務局)
対象者 個人(住民税納税者) 法人(青色申告法人)
創設年 2008年(平成20年度) 2016年(平成28年度)
税の軽減 所得税・住民税から控除(自己負担2,000円) 損金算入 約3割+税額控除 最大6割=合計 最大約9割軽減
(内訳: 法人税の損金算入による法人税・住民税・事業税の軽減効果が約30%、加えて法人住民税・法人税・事業税からの税額控除で最大60%。実質負担は最小1割)
返礼品 あり(寄附額の3割以内の地場産品) なし(経済的利益の供与は禁止)
最低寄附額 実質的な下限なし 1回10万円以上
寄附先 全国の自治体 認定された地域再生計画を持つ自治体(本社所在地を除く)
寄附の使途 自治体の裁量(使途選択制を設ける自治体もあり) 認定された地方創生事業に限定
制度の期限 恒久制度 時限措置(令和9年度末=2028年3月31日まで延長済/令和7年度税制改正)
根拠法 地方税法第37条の2ほか(個人住民税寄附金税額控除) 地域再生法第17条の3(地方創生応援税制)/法人税法第37条7項(損金算入)/租税特別措置法第42条の12の2(税額控除)
違反時のペナルティ 申告漏れ等への一般的な追徴課税 欠格期間2年(経済的利益供与違反時の寄附停止/令和7年4月1日施行)

※「対象者」は企業版が青色申告法人に限定。本社所在地ルール(地域再生法第13条の2第1項)の詳細はデメリット記事の本社所在地縛り節を参照。

最大の違い:返礼品の有無

個人版ふるさと納税では、寄附額の3割以内の地場産品を返礼品として受け取れることが大きな魅力となっています。一方、企業版ふるさと納税では返礼品はありません。寄附の代償として経済的な利益を供与することは明確に禁止されています。

ただし、感謝状の贈呈や自治体HP・広報での企業名紹介、施設への企業名表示などは認められています。

税の仕組みの違い

個人版

個人版では、寄附額から2,000円を差し引いた金額が所得税・住民税から控除されます。年収や家族構成に応じた控除上限額があり、その範囲内であれば実質2,000円の自己負担で寄附が可能です。

企業版

企業版では、通常の寄附金の損金算入(約3割の軽減効果)に加え、法人住民税・法人税・法人事業税から最大6割の税額控除が受けられます。合計で最大約9割の軽減効果となり、実質負担は約1割です。

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所得額と寄附額の2つを入力するだけで、税額控除額・実質負担額・税軽減の内訳がグラフで表示されます(令和9年度末まで延長対応の2026年版)。

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稟議で個人版と混同しがちな3ポイント

CSR担当者が経営層に提案する場面で、決裁者が個人版ふるさと納税のイメージで反応してしまい議論が噛み合わなくなるケースがあります。先回りして以下3点を稟議書冒頭で明示しておくことで、混乱と差し戻しを防げます。

① 「返礼品でCSRを語れる」は個人版の話

企業版ふるさと納税は経済的利益の供与が禁止されており、寄附の対価として物品・サービスを受け取ることはできません。稟議書で「返礼品で社員配布」「契約特典」といった文言が混入していたら、即削除してください。認められるのは感謝状・自治体HP/広報での社名紹介・施設への企業名表示のみです。

② 「自己負担2,000円で済む」も個人版の話

個人版の自己負担2,000円固定は所得税・住民税の控除上限内に限った話です。企業版は「最低寄附額10万円・実質負担最小1割」の構造で、寄附額に比例して実負担も増えます。経営層が「わずかな自己負担で社会貢献できる」と誤認したまま意思決定が進むと、後から「想定より持ち出しが大きい」と差し戻されます。

③ 「いつでもできる恒久制度」も個人版の話

個人版は恒久制度ですが、企業版は令和9年度末(2028年3月31日)までの時限措置です。再延長されない前提で「今期・来期・再来期の3年間で完了する事業」として稟議に組み込むのが安全です。複数年契約や中期経営計画に紐づける場合は、制度終了後の継続スキーム(一般寄附金や別枠の社会貢献予算)への切替条項を仕込んでおきましょう。

寄附額100/500/1,000万円|個人版・企業版の実質負担比較表

同じ寄附額でも、個人版と企業版では実質負担額が10倍以上変わるケースがあります。経営層に「なぜ企業版なのか」を即座に伝えるための比較表が以下です。

寄附額 個人版(年収1,000万円・独身・控除上限約17万円目安) 企業版(損金算入30%+税額控除60%=最大9割軽減) 個人版÷企業版
100万円 実質負担 約83.0万円
控除上限17万円を超えた83万円は全額自己負担に近づく
実質負担 約10.0万円
9割軽減で約90万円が法人税等から軽減
約8.3倍
500万円 実質負担 約483.0万円
控除上限を大幅超過し、ほぼ全額が自己負担
実質負担 約50.0万円
450万円が法人税等から軽減
約9.7倍
1,000万円 実質負担 約983.0万円
個人で1,000万円規模の寄附は控除上限を大きく超え、節税効果はほぼ消滅
実質負担 約100.0万円
900万円が法人税等から軽減
約9.8倍

※個人版の控除上限額は年収・家族構成・他の控除によって変動します。年収1,000万円・独身・社会保険料控除のみ適用の場合の概算(総務省ふるさと納税ポータル試算)。
※企業版の実質負担は法人住民税法人税割の20%上限・法人税の5%上限・法人事業税の20%上限を満たす前提の最大軽減ケース。資本金規模・利益水準で軽減率は変動するため、自社の数値での試算はシミュレーションページを参照してください。
※両者は別制度のため、税務上の取扱・控除原資・申請手続きが完全に分離しています。同じ「ふるさと納税」の名前で並べるのは便宜上の比較です。

寄附先の選び方の違い

個人版

全国のどの自治体にも寄附が可能です。返礼品を基準に選ぶことが一般的です。

企業版

内閣総理大臣が認定した地域再生計画を持つ自治体の事業のみが対象です。また、本社が所在する自治体への寄附は対象外となります。当サイトでは全国の認定事業の一覧から寄附先を探すことができます。

企業が活用するメリット

返礼品がない企業版ふるさと納税ですが、以下のようなメリットがあります。

  • 最大約9割の税軽減:実質1割の負担で地域貢献が可能
  • 地方公共団体との新たなパートナーシップ構築:事業を通じた長期的な関係づくり
  • SDGs・ESGへの貢献:地方創生を通じた社会的責任の実践
  • 企業PR:感謝状、HP掲載、施設への名前表示など
  • 人材育成人材派遣型を活用した社員の成長機会

企業版ふるさと納税の詳しい仕組みについては、企業版ふるさと納税とは?制度概要(地域再生計画と認定スキームの解説)をご覧ください。控除額の中身を稟議で語るときはメリット記事デメリット記事を併読すると、説得力が一段上がります。

稟議で必ず聞かれる Q&A 7問テンプレ回答(CSR担当者向け)

CSR担当者が個人版・企業版の違いを社内稟議で説明する際、経営層・経理部門・法務部門から繰り返し聞かれる質問7パターンを、根拠条文付きでテンプレ回答化しました。経理担当者の稟議Q&A(仕訳・別表)と併読すると稟議書がさらに固まります。

Q12. 「返礼品で社員に配ったり、契約先への手土産にできるか」と聞かれたら?

A. その質問は個人版(地方税法第37条の2)の話と混同されています。企業版は地域再生法第13条の2第3項により『経済的な利益の供与』が禁止されており、返礼品・物品・サービス・施設利用などを寄附の対価として受け取ることはできません。違反すると欠格期間2年(令和7年4月1日施行)が課され、その間に行った寄附は税額控除の対象外になります。認められるのは感謝状・自治体HP/広報での社名紹介・施設への企業名表示のみで、いずれも大臣表彰受賞事例のような対外発信は問題ありません。

Q13. 「自己負担2,000円で済むのでは」と質問されたら?

A. それは個人版の話です。個人版の自己負担2,000円固定は所得税・住民税の控除上限内に限った計算で、年収1,000万円・独身でも控除上限は約17万円目安(住民税控除可能額の20%)です。企業版は最低寄附額10万円・実質負担最小1割の構造で、寄附額に比例して実負担も増えます。1,000万円寄附なら実質負担は約100万円(最大9割軽減ケース)になります。詳細は実質負担100/500/1,000万円 比較表シミュレーションページで確認してください。

Q14. 「ふるさと納税は恒久制度のはずでは」と問われたら?

A. 個人版は恒久制度(地方税法)ですが、企業版は時限措置で令和9年度末(2028年3月31日)までの寄附が対象です。令和7年度税制改正で同延長と欠格期間2年が同時施行されました(内閣府 令和7年度税制改正PDF)。複数年契約や中期経営計画に紐づける場合は、制度終了後の継続スキーム(一般寄附金や別枠の社会貢献予算)への切替条項を稟議書に仕込んでおきましょう。

Q15. 「個人版の控除上限17万円を企業版でも使えばよいのでは」と誤認されたら?

A. 計算ロジックが完全に別物のため、引用は誤りです。個人版の控除上限は『年収・家族構成・他の控除』で決まる住民税控除可能額の20%目安(年収1,000万円・独身で約17万円)。企業版の上限は『法人税額×10%+法人住民税法人税割×20%+法人事業税×20%』で計算し、損金算入30%と合わせて最大9割軽減が成立します。資本金1億円・純利益1億円規模で寄附額1,000万円の試算はシミュレーション記事の規模別3事例を参照してください。

Q16. 「本社所在地ルールは個人版にも適用される」と誤解されたら?

A. 適用されません。個人版(地方税法第37条の2)は全国どの自治体にも寄附可能で、住所地以外の自治体に寄附しても税制優遇を受けられます。企業版のみ地域再生法第13条の2第1項により『本社所在地の自治体への寄附は対象外』と明示されています。本社が東京23区交付団体・横浜・大阪などにある企業は、所在地以外の認定自治体を選ぶ必要があります(東京本社CSR担当者向けの活用パターンを参照)。

Q17. 「役員が個人版・自社が企業版で二重控除になりませんか」と聞かれたら?

A. なりません。個人版は『個人』の所得税・住民税を控除原資とし、企業版は『法人』の法人税等を控除原資とするため、課税主体が完全に異なり二重控除は発生しません。役員個人が個人版(自己負担2,000円・返礼品あり)を使い、自社が企業版(最低10万円・返礼品なし・最大9割軽減)を使うことは独立した処理です。事例集(IT/通信業)事例集(製造業)には役員私的寄附と企業寄附を併用しているケースもあります。

Q18. 「稟議書で個人版・企業版を比較する書式テンプレはあるか」と求められたら?

A. 本記事の比較表11観点(正式名称・所管省庁・対象者・創設年・税の軽減・返礼品・最低寄附額・寄附先・使途・期限・根拠法)に「違反時のペナルティ」行を加えた12観点を、そのまま稟議書添付資料として転用できます。冒頭に『個人版(自己負担2,000円・返礼品あり)と企業版(最低10万円・返礼品なし・最大9割税軽減)は別制度』と前置きすると経営層の混同を防げます。経理処理は accounting-guide別表十四(二)・別表六(二十四)の記載は finance-qa-guide役員会プレゼンの組立ては executive-presentation-guideを参照してください。

Q19. 「個人事業主だが企業版ふるさと納税は使えるのか」と社内・取引先から問われたら?

A. 使えません。企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)の対象は地域再生法第13条の2が定める『青色申告法人』に限定されており、個人事業主(フリーランス・個人開業の士業・小売業等)は法人格を持たないため対象外です。個人事業主が利用できるのは個人版ふるさと納税(地方税法第37条の2)で、自己負担2,000円・返礼品あり・全国の自治体に寄附可能の仕組みです(本記事冒頭の比較表参照)。

法人成り(株式会社・合同会社等を設立)後の切替タイミング: 法人成りした事業年度から青色申告承認申請を行えば企業版ふるさと納税の対象になります。設立初年度から企業版を活用したい場合は、設立日から3か月以内(または最初の事業年度終了日のいずれか早い日まで)に青色申告承認申請書を所轄税務署に提出してください(法人税法第122条)。ただし法人成り直後の最初の事業年度は赤字(法人税額ゼロ)になるケースが多く、その場合は税額控除6割部分が活用できないため、損金算入分のみの軽減効果になります。法人成り後2-3年経過し安定した法人税納付が始まったタイミングで企業版を稟議に組み込むのが現実的です(資本金規模・純利益と寄附額の組み合わせはシミュレーションのQ4「複数自治体に分割寄附した場合」と「法人成り後の切替留意点」を参照)。

個人事業のまま企業版を狙うのは構造上不可能: 企業版は法人税申告書(別表一・別表十四(二)・別表六(二十四))の提出を前提とした税額控除の仕組みであり、個人事業主が提出する確定申告書(所得税申告)には対応する控除欄がありません。別表十四(二)の記載例は finance-qa-guideに整理しています。「個人事業主 ふるさと納税 シミュレーション」で当ページに到達した方は、まず総務省 個人版ふるさと納税ポータルのシミュレーターをご利用いただき、将来法人成りされた段階で本サイトの企業版コンテンツに戻ってきてください。

よくある質問(個人版との混同パターン)

Q1. 役員が個人版ふるさと納税をしながら、会社として企業版ふるさと納税も利用できますか?

A. できます。個人版は「個人」の所得税・住民税を原資とし、企業版は「法人」の法人税等を原資とする別制度です。役員個人が個人版を使うことと、法人が企業版を使うことは独立して行えます。ただし、法人が行う企業版ふるさと納税は本社所在地の自治体への寄附は対象外です。

Q2. 「企業版ふるさと納税」という通称と「地方創生応援税制」という正式名称、どちらを使うべきですか?

A. 稟議書や社内報告では通称「企業版ふるさと納税」の方が伝わりやすい場合がほとんどです。法人税申告書や税理士との協議では正式名称「地方創生応援税制」を使用するケースが多く、両名称を併記しておくと混乱が防げます。

Q3. 令和9年度以降も制度は続きますか?

A. 企業版ふるさと納税は時限措置であり、令和7年度税制改正で令和9年度末(2028年3月31日)まで延長されました(内閣府 令和7年度税制改正PDF)。なお令和7年4月1日以降は欠格期間2年(経済的利益供与違反時の寄附停止期間)も同時施行されています。個人版ふるさと納税(恒久制度)と異なる点の一つです。CSR計画に組み込む際は令和9年度(2027年4月1日〜2028年3月31日)に行う寄附まで対象であることを稟議に明記し、再延長されない前提で逆算した中期計画を策定してください。

CSR担当者向け:テーマ別の活用ガイド

企業版と個人版の違いを理解したら、次は自社のCSR戦略と結びつけましょう。テーマ別のガイドがあります。