企業版ふるさと納税は最大約9割の税軽減が受けられる魅力的な制度だが、すべての企業にとって最適とは限らない。実際に活用を検討したものの断念した企業も少なくない。本記事では、制度上のデメリットに加えて、実際に企業が直面した課題を具体的に紹介する。

この記事のポイント

  • 決算書上の見かけの利益が減少する問題(特に上場企業)
  • 本社所在地の自治体との関係悪化リスク
  • 寄附先選定にステークホルダーへの説明責任が求められる
  • 経済的見返りの禁止、制度の期限など構造的な制約

デメリット①:決算書上の利益が減少して見える

企業版ふるさと納税は最大約9割の税軽減が得られるため、キャッシュフロー上の実質負担は小さい。しかし、損益計算書(P/L)上は寄附金が費用計上されるため、営業利益や経常利益が減少して見えるという問題がある。

税額控除は法人税等の減少として反映されるが、これは損益計算書の下段(税引前利益以下)に影響するため、営業利益の段階では寄附額がそのまま費用として現れる

【実例】上場企業が断念したケース

ある上場企業では、企業版ふるさと納税の活用を経営会議で提案した。しかし、寄附金が損益計算書上の費用として計上されることで営業利益が見かけ上減少する点が問題となった。アナリストや機関投資家に対して「利益減少の理由は寄附であり、税効果で実質負担は小さい」と説明する手間やリスクを考慮した結果、活用を見送ることとなった。

特に四半期決算ごとに業績を開示する上場企業にとっては、たとえ実質負担が小さくても、表面上の業績悪化は株価への影響が懸念される。非上場の中小企業であれば、この問題は比較的小さい。

デメリット②:本社所在地の自治体との関係悪化リスク

企業版ふるさと納税では、本社が所在する自治体への寄附は対象外と制度上定められている。これは、地方創生の趣旨(都市部から地方への資金移動)に基づく制限であるが、企業にとっては思わぬ問題を引き起こすことがある。

企業が他の自治体に寄附をすると、その分の税額控除により本社所在地の自治体の税収が間接的に減少する。自治体側がこれを把握した場合、企業と自治体の関係に影響が出る可能性がある。

【実例】地元自治体との関係を考慮して断念したケース

ある企業では、地方の自治体が推進する教育事業への寄附を検討していた。しかし、本社所在地の自治体とは長年にわたり良好な関係を築いてきた経緯があり、他の自治体への寄附が「地元への裏切り」と受け取られるリスクを懸念した。結果として、自治体との関係性を優先し、企業版ふるさと納税の活用を見送った。

この問題は特に、本社所在地の自治体から補助金を受けている企業や、自治体と取引関係がある企業にとって大きい。寄附を行う場合は、事前に地元自治体への配慮を検討する必要がある。

デメリット③:ステークホルダーへの説明責任

企業版ふるさと納税は「どこに、なぜ寄附するのか」を社内外のステークホルダーに明確に説明する必要がある。個人のふるさと納税であれば個人の判断で済むが、企業の場合は株主・取締役会・社員に対する説明責任が生じる。

【実例】寄附先の選定理由を説明できず断念したケース

ある企業では、役員の個人的なつながりがある自治体への寄附を提案した。しかし、社内から「なぜその自治体なのか」「自社の事業戦略との関連性は何か」という質問に対して明確な回答を用意できなかった。寄附先の選定が恣意的と見なされるリスクを避けるため、最終的に活用を断念した。

この問題を回避するには、自社の事業と関連性のある自治体・事業を選ぶことが重要である。例えば、IT企業であればDX推進事業、教育関連企業であれば教育支援事業など、事業戦略との整合性を示せる寄附先を選べば、ステークホルダーへの説明がしやすくなる。

デメリット④:経済的見返りが禁止されている

個人版ふるさと納税では返礼品を受け取れるが、企業版では寄附の見返りとしての経済的利益の供与は明確に禁止されている。具体的には以下のような行為が禁止されている。

  • 寄附の代償として補助金を交付すること
  • 寄附企業に対して入札で便宜を図ること
  • 寄附企業の商品を優先的に購入すること
  • 寄附額に応じた低利融資を行うこと

詳しくは経済的利益の供与の禁止に関する記事を参照してほしい。感謝状の贈呈や企業名の公表は禁止事項に該当しないが、返礼品のような目に見える見返りは期待できない。

デメリット⑤:制度に期限がある

企業版ふるさと納税は令和9年度(2027年度)までの時限制度である。過去にも延長が繰り返されてきた経緯はあるが、恒久的な制度ではないため、中長期の事業計画に組み込みにくい面がある。

時期 内容
平成28年度(2016年) 制度創設
令和2年度(2020年) 税額控除割合を2倍に引き上げ、人材派遣型を追加
令和7年度(2025年) 令和9年度まで延長決定
令和9年度(2027年) 現時点での期限

デメリットを踏まえた上での活用のコツ

上記のデメリットを理解した上で、それでも企業版ふるさと納税を有効に活用している企業は多い。以下のような工夫で課題を軽減できる。

  • 自社の事業戦略と関連する寄附先を選ぶ:ステークホルダーへの説明がしやすくなり、副次的な事業効果も期待できる
  • 経営企画・IR部門と事前に連携する:決算への影響を事前にシミュレーションし、開示資料での説明方法を準備する
  • 小額から始める:最低10万円からスタートし、社内の理解を得ながら段階的に拡大する
  • 複数年で継続する:単年で終わらず継続することで、自治体との関係が深まり、寄附の意義を社内外に示しやすくなる

メリットについては企業版ふるさと納税のメリット記事で詳しく解説している。メリットとデメリットの両面を理解した上で、自社に合った活用方法を検討してほしい。

当サイトでは、全国の自治体が認定を受けた地域再生計画の一覧を掲載している。事業内容から自社との関連性を検討し、寄附先の選定に活用していただきたい。