この動画は、心理学者のシャーメイン・ジャックマン博士が自身の体験を語るTEDxトークです。博士号取得まで「人一倍働く」ことを優先し続けた結果、血圧の急上昇という二度の緊急事態に直面したと述べます。そこから「野心より健康とウェルビーイングを優先する」ことを学んだ過程と、日々実践する「ABC」を紹介します。動画は Reclaiming wellbeing in the workplace|Dr. Charmain Jackman|TEDx でご覧いただけます。
この記事は海外のTEDxトーク(登壇者個人の見解と経験)の要点を日本語で再構成したものであり、査読を経た研究論文ではありません。職場のウェルビーイングについてエビデンスに基づく情報をお探しの方は、当サイトの研究記事 健康経営ROIの実態 もあわせてご覧ください。
登壇者はどんな人物ですか
ジャックマン博士は、自身を「セラピスト、より正確には心理学者」と紹介しています。心理学者になることは子どもの頃からの夢であり、両親が夢の実現のために払った犠牲を知っていたことが、その野心をいっそう強くしたと語ります。アメリカに留学し、優秀な成績で卒業し、29歳で心理学の博士号(PhD)を取得したと述べています。
博士はなぜ「働きすぎ」に陥ったと語っていますか
博士は、心理学者になる過程で同時に3つも4つもの仕事をこなし、長時間労働をいとわなかったと振り返ります。両親が昼夜を問わず働く姿を見て育ったため、「どんな犠牲を払ってでも秀でる」と決めていたといいます。
その背景として、家族やコミュニティから受け継いだ「言葉の宝石(gems)」を挙げています。たとえば「(人の)2倍働かなければならない」「沈黙は金(口を閉じておきなさい)」といった教えです。博士は、これらの言葉は文化の中では財産だが、家父長制・資本主義・白人至上主義が染み込んだ職場とぶつかると「命に関わる(deadly)」ものになりうると述べています。
体調はどのように悪化したと述べていますか
博士は、絶え間ないコードスイッチング(場面ごとの振る舞いの切り替え)やマイクロアグレッション、人種差別的なシステムの中にいる感覚が感情的な負担となり、常にストレスを抱え疲れていたと語ります。
転機は2011年7月。脳に転移したがんを患う叔母を見舞った病院で、看護師に血圧を測ってもらったところ、本来あるべき数値の2倍に達していたといいます。看護師から「今すぐ救急に行きなさい」と言われ、博士は「生き延びたら自分をもっと大切にする」と誓ったと述べています。これが最初の「目覚めの警告(wake-up call)」だったと振り返ります。
二度目の危機について何を語っていますか
博士によれば、最初の警告は長続きせず、やがて古い習慣に戻ってしまったといいます。2012年9月17日、リーダー職2年目で、黒人女性リーダーとして経験した人種差別・性差別に直面しながらも「波風を立てたくない」と口をつぐんでいたと述べます。当時、第二子を妊娠36週でした。
昼休みの妊婦健診で血圧が高く、再検査の末に医師から「妊娠高血圧腎症(preeclampsia)」と告げられ、二度目の救急搬送となったといいます。夫が医療上の代理人として「母体と胎児のどちらかを選ぶ」決断を迫られうる状況になり、夫の「君を失いたくない」という言葉が「二度目の目覚めの警告」になったと語ります。
博士がトーク内で言及した数値はどのようなものですか
博士はトークの中で、次の点に言及しています。いずれも博士がトーク内で紹介した内容であり、トーク全体は査読論文ではありません。
- 妊娠高血圧腎症(preeclampsia)は妊娠に関連する高血圧であり、博士はCDCを引用して黒人女性は白人女性より発症率が高いと述べています。また、黒人女性は白人女性に比べ出産で死亡する確率が2.6倍高いと述べています。
- これらの統計の背景には「人種的ストレス(racial stress)」という、あまり語られない要因があると主張しています。
- ロクスベリー/ヌビアン・スクエア地区に住む黒人・褐色の人々の平均寿命は、わずか2マイル離れたバックベイ地区に住む白人住民より23年短い、と紹介しています。
博士は、職場における人種的ストレスもまた「命に関わる(deadly)」であり、それはリーダーシップを軽んじられたり、アイデアや人間性を割り引かれたり、差別を目撃しても沈黙する同僚や上司の存在として現れると述べています。また、2024年1月に亡くなった黒人女性リーダー、アントワネット・キャンディア=ベイリー博士の悲劇に触れ、職場の人種差別が引き起こす精神的苦痛を指摘しています。
博士は職場のウェルビーイング産業についてどう述べていますか
博士は、職場のウェルビーイングは数十億ドル規模の産業でありながら、いまだ「画一的(one-size-fits-all)」なアプローチにとどまっており、自分たちのために設計されていないと主張します。二度の警告と数回のバーンアウトを経て、「自分のウェルビーイングを職場に頼ることはできない、それは自分次第だ」と気づいたと語ります。そして優先順位を組み替え、「まず健康とウェルビーイング、それから野心」という順序にしたと述べています。野心が薄れたわけではなく、現在はフルタイムの起業家として活動しつつ、健康を第一に置いていると語ります。
博士が勧める「ABC」とは何ですか
博士は、セラピー(自身がセラピストなので当然勧める、と述べています)に加えて、野心より健康とウェルビーイングを優先するために自分が使っている「3つの新しい宝石」を、無料で簡単な「ABC」として紹介しています。
- A:祖先の肯定(Ancestral affirmations) ― 自分が何者で、どこから来たかを思い出すこと。博士は「ancestral mathematics(祖先の数学)」では4,000人を超える祖先が自分を取り囲み肯定してくれていると述べ、1〜2個のアファメーションを作って毎日唱えることを勧めています。例として「私が癒えるとき、祖先は微笑む(My ancestors smile when I heal)」を挙げています。
- B:呼吸(Breath) ― 意図的な深い呼吸は感情・思考・行動を落ち着かせ、慢性的なストレスから癒える助けになると述べます。鼻から吸い、口からゆっくり吐く呼吸を勧めています。
- C:コミュニティでの癒し(Community healing) ― 似た経験をした人、自分のウェルビーイングに関心を持つ人、自分を支えてくれる人々に囲まれること。共に癒えることができる、と述べています。
博士はトークを「もう一度の目覚めの警告を待たないで」という言葉で締めくくっています。
日本企業の人事・総務担当はこの話をどう受け止めればよいですか
このトークはあくまで登壇者個人の体験と見解であり、日本の職場や日本企業を対象とした研究結果ではありません。ただし「従業員が自分の健康を後回しにしてしまう構造」「画一的なウェルビーイング施策の限界」という問題提起は、人事・総務・経営企画・CSR担当者が自社の制度を振り返るうえで示唆を与えるものといえます。
従業員のウェルビーイングへの投資が組織のパフォーマンスにどう関わるのか、エビデンスを重視して検討したい場合は、当サイトの体系的な解説をご活用ください。職場の健康投資の費用対効果については 健康経営ROIの実態 を、健康・ウェルビーイング全般の記事一覧は 健康経営・職場のウェルビーイング のハブページをご覧いただけます。
健康投資と地域貢献をどうつなげられますか
従業員の心身の健康への投資は、企業の社会的な姿勢を示す取り組みの一つです。同じく「社会への貢献」という観点では、企業が自治体の事業を応援できる仕組みとして企業版ふるさと納税があります。仕組みの基礎は 企業版ふるさと納税とは で解説しています。自社に合った寄附先や活用方法を知りたい場合は AI診断 も活用してみてください。健康経営と地域貢献を、企業価値を高める両輪として位置づける視点が考えられます。
よくある質問
このトークは研究に基づくものですか
このトークは心理学者であるジャックマン博士個人の体験と見解を語ったTEDxトークです。博士はCDCの統計など一部の数値に言及していますが、トーク全体は査読論文ではありません。エビデンスを重視する場合は当サイトの研究記事をご参照ください。
「ABC」とは何の略ですか
博士が紹介する日々の実践法で、A=Ancestral affirmations(祖先の肯定)、B=Breath(呼吸)、C=Community healing(コミュニティでの癒し)を指します。いずれも無料で取り組めるものだと博士は述べています。
博士が体験した健康上の危機とは何ですか
博士は、叔母の見舞い先で血圧が本来の2倍に達して救急搬送されたこと(2011年)と、第二子妊娠36週で妊娠高血圧腎症と診断され再び救急搬送されたこと(2012年)の、二度の危機を語っています。
このトークは日本企業に当てはまりますか
トークは登壇者個人の経験と米国の文脈に基づくもので、日本企業を対象とした研究ではありません。ただし「従業員が健康を後回しにする構造」「画一的なウェルビーイング施策の限界」という問題提起は、自社制度を見直す参考になりえます。