海外には、寄付を「やるかどうか」ではなく「会社の仕組みとして毎年自動的に行う」状態に作り込んだ企業があります。代表例がSalesforceの「1-1-1モデル」(株式・製品・社員時間のそれぞれ1%を社会に還元)と、Patagoniaの「1% for the Planet」(売上の1%を環境保全に拠出)です。本記事では両社を公式ソースに基づいて整理し、寄付を経営に組み込む考え方を紹介します。
Salesforceの「1-1-1モデル」——創業時に寄付を埋め込む
Salesforceは1999年の創業時から、共同創業者のMarc Benioffが「1-1-1モデル」を会社の仕組みに組み込みました。同社の公式ページによれば、その内容は「株式(equity)の1%」「製品(product)の1%」「社員の時間(employee time)の1%」をコミュニティに還元するというものです。
具体的には、次の3本柱で構成されています。
- 株式の1%:自社株式の1%をSalesforce Foundationに拠出。
- 製品の1%:非営利団体(NPO)に対し、CRM製品を寄贈または割引提供。
- 社員の時間の1%:社員に年6日の有給ボランティア休暇を付与。
このモデルの要点は、寄付の原資を「その年に利益が出たかどうか」に依存させず、株式・製品・労働時間という、事業そのものに紐づいた資源から拠出している点にあります。創業時点で組み込んだことで、後から予算化を議論する必要がなく、会社の成長とともに還元の規模も自然に拡大していく構造になっています。
Pledge 1%——自社の仕組みを「外部の運動」に広げる
Salesforceは2014年に、この考え方を他社にも開放するため「Pledge 1%」を共同設立しました。Pledge 1%の公式情報によれば、これは501(c)(3)(米国の非営利法人)として運営される枠組みで、企業規模を問わず、時間・製品・利益・株式のいずれか一部を社会貢献に充てることを企業が宣言(pledge)できるものです。
大企業でなくても、たとえば創業まもないスタートアップが「将来の株式の1%」をあらかじめコミットしておく、といった形で参加できる柔軟さが特徴です。Pledge 1%によれば、これまで100カ国超で10,000社超が参加し、ボランティア時間・製品・資金を通じて10億ドル($1B)超の価値が生み出されたとされています。
Salesforceのポイントは、自社の寄付の仕組み(1-1-1)を社内で完結させず、誰でも真似できる「型」として外部に切り出し、運動として広げたことです。寄付が一社の善意ではなく、業界全体で共有される標準的なプラクティスへと展開していきました。
Patagoniaの「1% for the Planet」——利益ではなく「売上」の1%
アウトドア用品メーカーのPatagoniaは、1985年から売上(利益ではなくsales)の1%を自然環境の保全・回復のために寄付してきました。同社の公式ページに示されている通り、これは「利益が出た年だけ」ではなく、売上に対して一定割合をコミットする設計です。赤字の年でも売上があれば拠出が発生するため、寄付を「環境を使って事業をしていることへのコスト(地球税)」として位置づける、強い意思を伴う仕組みになっています。
2002年には、創業者のYvon ChouinardとCraig Mathews(Blue Ribbon Flies)が、この取り組みを他社にも広げるために非営利組織「1% for the Planet」を設立しました。1% for the Planetの公式情報によれば、Patagoniaは累計で1億4,000万ドル($140M)超を草の根の環境団体に拠出し、1% for the Planet全体では4,500社超から8億ドル($800M)超が環境パートナーに提供されたとされています。
2022年——所有権そのものを環境保護の仕組みに移管
Patagoniaはさらに踏み込んだ意思決定を行いました。同社の公式発表によれば、2022年9月、Chouinard一家は約30億ドル($3B)規模とされる同社の全所有権を、環境保護に専念するための仕組み——「Patagonia Purpose Trust」と非営利の「Holdfast Collective」——へ移管しました。これにより、事業から生まれる価値が環境保護へ向かう構造が、会社の所有形態のレベルで固定されました。売上の1%寄付は、引き続き事業の憲章(事業の前提となる約束)として継続されています。
この移管は、寄付の「仕組み化」を究極まで進めた事例といえます。経営者個人や経営陣の判断に依存していると、トップが交代したり方針が変われば寄付は止まりかねません。Patagoniaは所有権の構造そのものを作り替えることで、誰が経営しても目的がぶれない形にした、と読むことができます。
2社に共通する3つの設計思想
Salesforceの1-1-1と、Patagoniaの1% for the Planet。業種も拠出の基準(株式・製品・時間/売上)も異なりますが、寄付を「単発の善意」ではなく「続く仕組み」に変えたという点で、共通の設計思想が見えてきます。
1. 創業思想に寄付を埋め込む
両社とも、業績が安定してから寄付を始めたのではなく、早い段階で会社の前提として組み込みました。Salesforceは1999年の創業時から1-1-1を設計し、Patagoniaは1985年から売上の1%拠出を続けています。「余裕ができたら寄付する」ではなく「最初から織り込む」という順序が共通しています。
2. 本業の資源と統合する
寄付の原資が、本業から切り離された別予算ではなく、事業そのものに紐づいている点も共通します。Salesforceは株式・製品・社員時間という事業資源を、Patagoniaは売上を基準にしました。本業が伸びれば寄付も自動的に増える設計になっているため、寄付と事業成長が同じ方向を向きます。
3. 自社で完結させず、外部運動にする
SalesforceはPledge 1%を、Patagoniaは1% for the Planetを、それぞれ独立した非営利組織として立ち上げ、自社の型を他社が再現できる形に開放しました。寄付を一社の競争優位として囲い込むのではなく、業界・社会全体の標準へと広げる発想です。
日本企業が「自社の寄付」を仕組み化するための示唆
日本企業のCSR・サステナビリティ・経営企画の観点から見ると、両社の事例は「寄付の金額」よりも「寄付の設計」に学ぶところが大きいといえます。多くの企業では、寄付は単年度予算の中で都度判断され、業績が悪化すると真っ先に削られがちです。これを避けるには、Salesforce・Patagoniaのように、拠出の基準をあらかじめルール化し(売上の何%、製品提供、社員の有給ボランティア日数など)、本業の資源と結びつけておくことが有効です。さらに、その取り組みを統合報告書やサステナビリティ方針に明文化し、経営の意思決定構造の中に位置づければ、トップ交代や景気変動に左右されにくい、継続性のある社会貢献として機能しやすくなります。自社の寄付を「単発のイベント」から「経営に組み込まれた仕組み」へと再設計する——それが2社の事例から得られる最も実務的な学びです。
企業の寄附に関するより幅広い情報は、企業の寄附ハブをご覧ください。
よくある質問
Q. Salesforceの「1-1-1モデル」とは何ですか。
A. Salesforceが1999年の創業時から組み込んだ社会還元の仕組みです。同社の公式情報によれば、株式(equity)の1%・製品(product)の1%・社員の時間(employee time)の1%をコミュニティに還元します。株式の1%はSalesforce Foundationへ拠出、製品はNPOへのCRM寄贈・割引、時間は社員への年6日の有給ボランティア休暇という形をとっています。
Q. Pledge 1%とは何ですか。
A. Salesforceが2014年に共同設立した、501(c)(3)の非営利の枠組みです。企業規模を問わず、時間・製品・利益・株式の一部を社会貢献に充てることを企業が宣言できます。Pledge 1%によれば、これまで100カ国超で10,000社超が参加し、10億ドル超の価値が生み出されたとされています。
Q. Patagoniaの「1% for the Planet」は利益と売上のどちらの1%ですか。
A. 利益ではなく売上(sales)の1%です。Patagoniaは1985年から、売上の1%を自然環境の保全・回復に寄付しています。2002年には創業者のYvon ChouinardとCraig Mathewsが同名の非営利組織を設立し、他社にも取り組みを広げました。
Q. Patagoniaが2022年に行った所有権の移管とは何ですか。
A. 同社の公式発表によれば、2022年9月、Chouinard一家が約30億ドル規模とされる同社の全所有権を、環境保護に専念する仕組み——Patagonia Purpose Trustと非営利のHoldfast Collective——へ移管しました。売上1%の寄付は、引き続き事業の憲章として継続されています。
Q. これらの事例から日本企業が学べることは何ですか。
A. 寄付を単発の判断にせず、拠出基準をルール化して本業の資源と結びつけ、経営の意思決定構造に明文化することです。これにより業績変動やトップ交代に左右されにくい、継続性のある社会貢献の仕組みを作りやすくなります。