スタートアップや民間企業が自治体と協働する動きは、近年「官民共創」「GovTech」といった言葉でよく語られるようになりました。本記事では、こうした連携が一般的にどう呼ばれているか、国の政策がどのような枠組みを整えているか、そして企業が関わる具体的な入口——サウンディング型市場調査や包括連携協定、実証実験など——が公式にどう整備されているかを、出典に基づいて整理します。効果の大小や成約のしやすさといった定量的な判断は避け、「こうした連携の入口が公式に整備されている」という事実に焦点を当てます。
本記事は、企業と自治体の連携を広く扱う 企業の地域連携ハンドブック(ハブ) のスポークです。地域連携の全体像を知りたい方は、ハブも合わせてご覧ください。
官民共創・GovTechとは(一般的な呼称としての留保)
「GovTech」とは、法令上の定義語ではありません。一般的には「Government(行政)×Technology(技術)」を組み合わせた造語として使われ、行政が民間の技術を活用してサービスのデジタル化を進める取り組みや領域を指すとされています。政府による統一的な定義は確認されていないため、本記事でも「一般に〜と呼ばれる」という形で留保を置いて扱います。
公的な組織による趣旨説明の一例として、一般財団法人GovTech東京は、自らの官民共創について「官と民がフラットに共創する中で、イノベーションを起こし、複雑化する行政課題の解決策を導き出していく」と表現しています(出典:GovTech東京「官民共創」)。この言葉は、行政と民間が対等な立場で課題解決に取り組む姿勢を表しており、その意味合いが広く共有されています。
国の枠組み:デジタル田園都市国家構想から地方創生2.0へ
企業と自治体の連携を支える背景には、国の政策の枠組みがあります。内閣官房が掲げる「デジタル田園都市国家構想」は、「地方からデジタルの実装を進め、地方と都市の格差を縮め、世界とつながる」ことを目指す構想です。基本方針は令和4年6月7日、総合戦略は令和4年12月23日、その改訂版は令和5年12月26日に閣議決定されています(出典:内閣官房 デジタル田園都市国家構想)。
現況:2025年度から「地方創生2.0」へ移行
重要なのは、2025年度(令和7年度)から「地方創生2.0」への移行が本格化していることです。地方創生2.0の基本構想は令和7年6月13日に閣議決定されています(出典:内閣官房「地方創生2.0基本構想」)。それに伴い、従来の「デジタル田園都市国家構想交付金」は別の枠組みへ再編・改称されています。詳細は内閣官房の最新公式情報でご確認ください。そのため本記事では、「デジ田交付金」を現行の制度として扱わず、すでに再編済みである点を前提としています。
デジタル庁・自治体DX推進計画
行政のデジタル化を牽引する司令塔として、デジタル庁は2021年9月1日に設立されました。自治体側のデジタル化については、総務省が「自治体DX推進計画」を公式に示しており、各版の計画書や手順書が公式ページに掲載されています(出典:総務省 自治体DXの推進)。最新版の番号や対象期間は随時更新されるため、本記事では断定せず、最新情報は公式ページでご確認ください。こうした枠組みが、自治体が民間と連携してデジタル化を進める土台となっています。
連携の具体的な形:サウンディング・包括連携協定・スマートシティPF
国の政策の下で、企業と自治体が実際に連携する手法はいくつかの型に整理できます。ここでは、公式に説明されている代表的な入口を紹介します。
サウンディング型市場調査
国土交通省の定義によれば、サウンディング型市場調査は「官民連携事業で事業発案・事業化検討段階に、地方公共団体が民間に意見・提案を求め、対話を通じ市場性や実現可能性の把握、アイデア収集を行う調査方法」です。国交省の手引きは平成30年6月に作成・公表されています(出典:国土交通省「サウンディング型市場調査の手引き」)。事業がまだ固まっていない段階で、自治体が民間の知見を募る公式な対話の場であり、企業にとっては早い段階から関われる入口です。
包括連携協定
包括連携協定は、自治体と企業、大学などとの間で、分野を限定せず幅広く継続的に連携することを定める協定として一般的に説明されます。特定の一事業に限った業務委託契約とは異なり、複数分野にわたる協力の土台を築く性質を持ちます。なお、政府による統一的な定義は確認されていないため、本記事では一般的な説明として留保付きで扱います。詳しくは 包括連携協定と企業(スポーク) もあわせてご参照ください。
スマートシティ官民連携プラットフォーム
スマートシティ官民連携プラットフォームは、内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省が主導する枠組みです。企業、大学、自治体、関係府省を会員として、事業支援や分科会、マッチング支援を行っています(出典:スマートシティ官民連携プラットフォーム)。会員数は時点によって変動するため、本記事では具体数を記載しませんが、複数の府省が連携して、官民のマッチングの場を公式に運営している点が特徴です。
代表的な事例:公式に整備された連携の入口
企業やスタートアップが自治体と連携する入口として、公式に運営されている取組をいくつか紹介します。支援額や採択数などは時点や年度によって変動するため、ここでは仕組みの事実に絞って記載しています。
GovTech東京(一般財団法人)
一般財団法人GovTech東京は、令和5年(2023年)7月24日に設立されました。理事長は宮坂学氏で、「区市町村を含めた東京全体のDX推進」を目的としています。官民共創事業として、スタートアップとの共創、プロトタイプ構築・実装検証、アカデミアとの共同研究などに取り組んでいます(出典:GovTech東京「about」「官民共創」)。
PoC Ground Tokyo(東京都スタートアップ社会実装促進事業)
PoC Ground Tokyoは、東京都が主体となって運営するスタートアップ社会実装促進事業です。スタートアップに、仮説検証や社会実装検証(PoC=実証実験)の機会と場を提供します。重点領域はウェルビーイング・ケア、クライメートテック、アーバンテックの3つです(出典:PoC Ground Tokyo)。技術の社会実装を後押しする、公式な入口の一つです。
Urban Innovation KOBE / Urban Innovation JAPAN
Urban Innovation KOBE(およびその全国展開であるUrban Innovation JAPAN)は、神戸市発のスタートアップ×自治体協働の取組です。スタートアップが行政課題に対して技術実証を提案し、採択された企業が市職員と協働しながら実証を行い、本格導入の判断を下す流れです(出典:Urban Innovation JAPAN 神戸市ページ)。行政の現場課題と民間の技術を結びつける協働モデルとして知られています。
企業の関わり方の入口
ここまで見てきたように、スタートアップや民間企業が自治体と連携するための入口は、国や自治体の双方で公式に整備されています。整理すると、企業の関わり方には主に以下の入口があります。
- サウンディング型市場調査:事業化検討の早い段階で、自治体の対話に意見・提案を提出する(出典:国土交通省)。
- 実証実験(PoC)への参加:PoC Ground TokyoやUrban Innovation JAPANなど、技術の社会実装を検証する公式プログラムに応募する。
- 官民共創プログラム:GovTech東京のように、行政課題の解決に向けてプロトタイプ構築や共同研究を行う枠組みに参画する。
- マッチングの場の活用:スマートシティ官民連携プラットフォームの会員となり、分科会やマッチング支援を利用する(出典:内閣府・総務省・経産省・国交省)。
- 包括連携協定:分野を限定せず継続的に連携する土台を、自治体と協定として築く。
これらはすべて、技術や提案を入口とする連携です。資金面から地域のプロジェクトに関わる方法としては、企業版ふるさと納税という制度もあります。技術連携と資金面の関与は性質が異なりますが、自社が地域とどう関わるかを検討する際の選択肢として、あわせて把握しておくと整理しやすくなります。自社に合う関わり方を素早く知りたい方は AI診断(無料) もご利用いただけます。
自治体との連携は、国の政策の枠組みのもとで複数の公式な入口が用意されています。まずは自社の技術や強みが、どの入口やどの自治体の課題と重なるかを見定めることが出発点になります。本記事は制度や枠組みの一般的な説明にとどめ、効果の大小や成約のしやすさ、金額については扱いません。各制度の最新情報は、本文に記載の各府省庁・組織の公式情報でご確認ください。
出典
- GovTech東京「官民共創」 https://www.govtechtokyo.or.jp/services/co-creation/
- GovTech東京「about」 https://www.govtechtokyo.or.jp/about/
- 内閣官房 デジタル田園都市国家構想 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/
- 内閣官房 地方創生2.0基本構想 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_chihousousei/
- 総務省 自治体DXの推進 https://www.soumu.go.jp/denshijiti/index_00001.html
- 国土交通省 サウンディング型市場調査の手引き https://www.mlit.go.jp/report/press/sogo21_hh_000082.html
- スマートシティ官民連携プラットフォーム https://www.mlit.go.jp/scpf/
- PoC Ground Tokyo(東京都スタートアップ社会実装促進事業) https://poc-ground.metro.tokyo.lg.jp/
- Urban Innovation JAPAN(神戸市) https://urban-innovation-japan.com/city/kobe-city/
よくある質問(FAQ)
GovTech(ガブテック)とは何ですか?
GovTechは法令上の定義語ではありません。一般に「Government(行政)×Technology(技術)」を組み合わせた造語として使われ、行政が民間のテクノロジーを活用してサービスのデジタル化を進める取り組みや領域を指すとされています。政府が統一した定義を示しているわけではなく、本記事でもその点を踏まえて取り扱っています。
官民共創とはどういう意味ですか?
行政と民間が協力して行政課題に向き合うことを意味する言葉です。例えば、一般財団法人GovTech東京は、自らの官民共創を「官と民がフラットに協働し、イノベーションを生み出し、複雑化する課題の解決策を導き出す」と表現しています(出典:GovTech東京)。
サウンディング型市場調査とは何ですか?
国土交通省の定義では、「官民連携事業の発案や事業化検討段階で、地方公共団体が民間に意見や提案を求める形で、対話を通じて市場性や実現可能性を確認し、アイデアを収集する調査方法」とされています。この手引きは平成30年6月に作成・公表され、企業が事業化の初期段階から自治体の検討に参加できる公式な入り口となっています。
デジタル田園都市国家構想交付金(デジ田交付金)は今も使えますか?
2025年度(令和7年度)から「地方創生2.0」への移行が進められており、従来のデジタル田園都市国家構想交付金は別の枠組みへ再編・改称されています(地方創生2.0基本構想は令和7年6月13日閣議決定)。そのため、「デジ田交付金」は現行の制度として扱えません。詳細は内閣官房の最新公式情報でご確認ください。
スタートアップが自治体と実証実験(PoC)をするにはどんな入口がありますか?
公式に運営されている例として、東京都が主導するPoC Ground Tokyoがあります。ここではスタートアップに仮説検証や社会実装検証の機会と場を提供しており、重点領域はウェルビーイング・ケア、クライメートテック、アーバンテックの3つです。また、神戸市発のUrban Innovation KOBE/JAPANも、行政課題への技術実証を提案し、採択企業が市職員と協働して実証を行い、本格導入の判断を下す仕組みです。
企業が自治体と連携する入口にはどのようなものがありますか?
国土交通省のサウンディング型市場調査、PoC Ground TokyoやUrban Innovation JAPANといった実証実験プログラム、GovTech東京のような官民共創プログラム、内閣府・総務省・経産省・国交省が主導するスマートシティ官民連携プラットフォーム、あるいは分野を問わない包括連携協定などがあります。いずれも公式に整備された連携の入り口です。