企業版ふるさと納税には、寄附金を送るだけでなく、自社の社員を地方自治体に派遣する「人材派遣型」という仕組みがあります。令和2年(2020年)10月に創設され、令和7年度税制改正で令和9年度末(2028年3月31日)まで延長が確定しました。企業の人材育成と地方創生を同時に実現できる注目のスキームで、令和6年度時点で累計157名が派遣され、116団体が活用しています。
この記事のポイント
- 令和9年度末まで延長確定(令和7年度税制改正・2028年3月31日まで)
- 累計派遣実績: 157名/受入116団体(内閣府 R070226 公表)
- 給与・社保・旅費の経理処理と按分計算(時間/日数ベース)の実務
- 在籍出向 vs 労働者派遣の法的区分(職業安定法44条の許可不要)
- 稟議で必ず聞かれる Q&A 7問のテンプレ回答(HR部門向け人事評価論点を含む)
人材派遣型とは
人材派遣型の企業版ふるさと納税とは、企業が地方自治体の地域再生計画に基づく事業に社員を派遣し、その派遣期間中の人件費を寄附金として扱う制度です。通常の金銭寄附と同様に、最大約9割の税軽減効果を受けることができます。
通常型との違い
| 比較項目 | 通常型(金銭寄附) | 人材派遣型 |
|---|---|---|
| 寄附の形態 | 金銭(現金・振込)または物品 | 社員の人件費 |
| 税軽減効果 | 最大約9割 | 最大約9割(同じ) |
| 企業の関与 | 寄附後は自治体に委ねる | 社員が事業に直接参画 |
| 人材育成効果 | なし | 社員のスキルアップが期待できる |
| 最低金額 | 1回10万円以上 | 人件費相当額(10万円以上) |
| 制度開始 | 平成28年(2016年) | 令和2年(2020年)10月 |
企業にとってのメリット
1. 税軽減と人材育成の両立
通常型と同じ税軽減効果(最大約9割)を受けながら、派遣された社員が地方で実務経験を積むことで成長できます。社員研修の一環として活用する企業も増えています。
2. リーダーシップ・調整力の育成
地方自治体での業務は、多様な関係者との調整や、限られたリソースでの課題解決が求められます。本社では得られない経験を通じて、社員のリーダーシップや課題発見力が鍛えられます。
3. 地域との深い関係構築
金銭寄附だけでは築けない、人と人のつながりが生まれます。派遣終了後も地域との関係が続き、ビジネスパートナーシップや新規事業のきっかけになることもあります。
4. CSR・ESG活動としてのアピール
社員の地方派遣は、統合報告書やCSRレポートで「人的貢献による地方創生」として具体的にアピールできます。SDGsの「目標11: 住み続けられるまちづくりを」などとの紐づけも容易です。
派遣の仕組みと要件
派遣期間
原則として1年以上の派遣が想定されていますが、柔軟な運用が可能です。
- フルタイム常駐: 自治体に常駐して業務に従事
- 週数日勤務: 週3日は自治体、残りは本社勤務
- 時短勤務: 午前のみ自治体勤務など
- リモート併用: 現地とリモートを組み合わせた勤務
派遣形態は企業・自治体間の協議で柔軟に決めることができます。
対象業務
派遣先での業務は、内閣府が認定した地域再生計画に基づく事業に限られます。具体的には以下のような業務が想定されます。
- DX推進・ICT活用(行政のデジタル化支援、アプリ開発など)
- 観光振興・地域プロモーション
- 産業振興・企業誘致支援
- まちづくり・都市計画
- 教育・子育て支援
- 環境保全・カーボンニュートラル推進
派遣社員の要件
派遣する社員に特別な資格要件はありませんが、以下の点が重要です。
- 企業との雇用関係が継続していること(出向の形態)
- 自治体の事業に専門知識やスキルを活かせる人材であること
- 本人の同意があること
手続きの流れ
人材派遣型の手続き(4ステップ)
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| STEP 1 | 受入自治体を探し、派遣内容を協議する |
| STEP 2 | 企業・自治体・派遣社員の三者で協定を締結する |
| STEP 3 | 派遣を実施し、人件費相当額を寄附金として処理する |
| STEP 4 | 実施状況を報告し、税額控除を申告する |
STEP 1: 受入自治体を探す
人材派遣を受け入れている自治体を探します。内閣府のポータルサイトで受入自治体の情報が公開されているほか、当サイトの事業一覧から関心のある分野の事業を見つけ、自治体に人材派遣の可否を問い合わせることもできます。
STEP 2: 三者協定の締結
企業・自治体・派遣される社員の三者で協定書を取り交わします。協定書には以下の内容を含めます。
- 派遣期間・勤務形態
- 従事する業務の内容
- 人件費の負担方法
- 指揮命令関係
- 秘密保持義務
STEP 3: 派遣の実施
協定に基づいて社員を派遣します。派遣期間中の人件費(給与・賞与・社会保険料など)のうち、自治体の事業に従事した分が寄附金として扱われます。
STEP 4: 報告と税申告
派遣期間終了後(または事業年度末)に、実施状況の報告を自治体に行います。自治体から寄附金受領証明書を受け取り、法人税確定申告の際に税額控除を申告します。申告手続きは通常型と同じです(手続きガイドのSTEP 4を参照)。
活用事例
奈良県葛城市 × リコージャパン
リコージャパンからSEが派遣され、住民向けサービスや庁内業務のアプリを15本開発しました。自治体のDX推進に大きく貢献した事例として、企業版ふるさと納税の大臣表彰を受賞しています。
岡山県真庭市 × 両備ホールディングス
東京オリンピック会場の建設に使われた木材(真庭市産のCLT材)を解体後に回収し、観光施設に再利用するプロジェクトに社員が参画。本格実施前の段階で売上25%増を達成しました。
制度の利用実績
| 指標 | 数値 | 時点 |
|---|---|---|
| 累計派遣人数 | 157名 | 令和6年度(2024年度)公表値 |
| 受入自治体数(累計) | 119自治体 | 令和6年度(2024年度)公表値 |
| 令和6年度の利用自治体 | 116団体 | 令和6年度実績(内閣府 R070226 資料) |
| 派遣件数の最新独自集計 | /donations/personnel_dispatch で随時更新 | 当サイト独自集計(令和5・令和6年度の寄附実績一覧の人材派遣フラグに基づく) |
※ 出典: 内閣府「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」令和7年2月26日公表資料(R070226_zinzaihakengata.pdf)。最新の派遣件数・派遣企業数・受入自治体ランキングは当サイトの人材派遣型 実績データで随時更新しています。
人材派遣型で稟議担当者が必ず聞かれる Q&A 7問テンプレ回答
金銭寄附型と異なり、人材派遣型は「人件費の経理処理」「在籍出向の法的区分」「派遣中の人事評価」「派遣先での便益供与リスク」といった HR・経理・コンプライアンスを横断する論点が稟議で必ず問われます。以下、上場企業のCSR・人事・経理担当者から実際に寄せられる7問へのテンプレ回答を、根拠条文・按分計算ロジック・他記事の関連箇所への深いアンカー付きで整理しました。
Q1. 派遣社員の人件費を「寄附金」として処理できる根拠条文は?
地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の根拠は地域再生法第13条の2第1項・第3項と租税特別措置法第42条の12の2であり、令和2年度税制改正で人材派遣型が追加されました。具体的には、内閣府が認定した地域再生計画に基づく事業に企業が社員を派遣し、その派遣期間中の人件費(給与・賞与・法定福利費・旅費等)相当額を寄附金として計上する仕組みです(内閣府 R070226 資料・人材派遣型Q&A)。
仕訳処理の根拠は法人税法第37条第3項第1号(特定寄附金)で全額損金算入し、地域再生法第13条の2第3項に基づき租税特別措置法第42条の12の2の税額控除(最大6割)と地方税法附則第8条の2の2の税額控除を併用します。詳細仕訳例は経理処理ガイドの「人材派遣型の仕訳例」を参照してください。
Q2. 給与・賞与・社会保険料・旅費はどこまで寄附金に算入できる?(按分計算の実務)
結論: 派遣業務に「実際に従事した時間または日数」で按分した額のみを寄附金として算入できます。内閣府の人材派遣型Q&Aでは、以下のように整理されています。
| 費用項目 | 算入可否 | 按分基準・要件 |
|---|---|---|
| 基本給・諸手当 | ○ 算入可 | 派遣業務に従事した時間/総労働時間で按分 |
| 賞与・退職金引当 | ○ 算入可 | 支給対象期間のうち派遣従事比率で按分 |
| 法定福利費(健保・厚年・雇用保険) | ○ 算入可 | 給与の按分と同じ比率を適用 |
| 旅費・宿泊費(自治体への往復・現地滞在) | ○ 算入可 | 派遣業務遂行のための実費に限る |
| 本社オフィスの間接費・管理費 | × 算入不可 | 派遣業務との直接対応関係が説明できないため |
| 派遣先で受けた接待・宿舎提供 | × 算入不可 | 便益供与禁止規定(地域再生法第13条の2第3項)に該当する恐れ |
按分計算は時間ベース(タイムシートでの記録)または日数ベース(出勤日カレンダー)のどちらでも可ですが、三者協定書に按分基準を明記しておくことが税務調査での反証材料になります。
Q3. 在籍出向と労働者派遣の違いは?職業安定法の許可は不要?
人材派遣型は「在籍出向」の形態で実施します。これは派遣元(企業)と派遣社員の雇用契約を維持したまま、指揮命令権だけを派遣先(自治体)に移すもので、職業安定法第44条の労働者派遣事業(許可制)には該当しません。
労働者派遣との違いは下記の通りです:
- 在籍出向(人材派遣型): 業として行わない一時的なもの、報酬の流れは「自治体→寄附金として企業」「企業→給与として社員」。職業安定法第4条第6号の「労働者供給」に該当しない(厚生労働省「在籍出向と労働者供給の判断基準」)。
- 労働者派遣: 業として反復継続的に行うもの。派遣業の許可(一般労働者派遣/特定労働者派遣)が必要。
稟議では「業として行わない一時的な人的支援であり、地方創生応援税制の趣旨に基づく地域貢献である」と整理することで、労務コンプライアンス論点を解消できます。
Q4. 派遣中の人事評価・賞与査定・復帰後ポジションはどう設計する?
派遣中の社員は派遣元企業の社員身分を維持するため、HR部門は以下の3点を派遣前に整理しておく必要があります。
- 人事評価の継続: 上司は派遣元の元上司のまま、派遣先での業務評価は受入自治体の担当課長が四半期ごとにフィードバックシートを提出する形で本社評価に組み込む(三者協定書に明記)。
- 賞与査定: 派遣業務の成果を「全社視点の貢献度」として加点項目化する。地方創生応援税制の社会的意義を社内表彰や統合報告書で発信することで、社員のモチベーションも維持できる(持続可能性レポート作成ガイド参照)。
- 復帰後ポジション: 復帰時は派遣前と同等以上の役職・処遇を保証することを協定書と就業規則で明示。地方派遣で得たネットワーク・知見を活かせる新規事業部門への配置が望ましい。
Q5. 派遣先で食事・宿泊・送迎の提供を受けたら便益供与に該当する?
原則として「業務遂行に必要な範囲」の食事・宿泊・送迎は便益供与にはあたりませんが、「業務外の接待・観光・特産品贈答」は便益供与禁止規定(地域再生法第13条の2第3項)に該当し、令和7年度改正で欠格期間が2年に延長されました(2025-04-01施行)。
具体的には:
- ○ 業務会議での食事提供(昼食・打合せ会食)→ 業務遂行の範囲内
- ○ 宿舎の現物提供(家賃相当を給与課税)→ 派遣業務に必要な居住
- ○ 出張時の自治体公用車での送迎 → 業務遂行に必要
- × 派遣終了時の温泉旅行・特産品贈答(金額不問)→ 便益供与に該当
- × 派遣社員家族への観光招待 → 便益供与に該当
違反時のペナルティ詳細は便益供与禁止規定の完全ガイドとデメリットと稟議7質問テンプレ回答(D7欠格期間2年)を参照してください。
Q6. 三者協定書に必ず入れるべき必須項目は?
三者協定書は企業・自治体・派遣社員本人の三者で締結し、税務調査で寄附金算入の根拠資料として求められます。最低限、以下の8項目を明記してください。
- 派遣期間(開始日・終了日/延長条件)
- 従事業務(地域再生計画の事業名と認定番号を明記)
- 勤務形態(フルタイム/週N日/時短/リモート併用の比率)
- 指揮命令関係(業務指示は受入自治体の担当課長が行う旨)
- 人件費の按分基準(時間ベース or 日数ベース、按分比率の算定方法)
- 守秘義務・個人情報保護(自治体業務で得た情報の取扱い)
- 事故発生時の責任分担(労災・賠償責任)
- 復帰時の処遇保証(同等以上の役職を派遣元が確約)
協定書のテンプレートは内閣府の人材派遣型Q&A末尾に参考様式があります。経営層向けの稟議書では、このうち①派遣期間②従事業務⑤按分基準⑧復帰処遇保証の4点を表形式で整理して提出すると承認が得やすいです(経営層向け説明資料の作り方参照)。
Q7. IT人材を派遣した実績は?案件規模感と費用対効果は?
令和6年度時点で金融・人材・IT業界の派遣件数が全体の約7割を占めています。代表的なIT人材派遣事例として、リコージャパンが奈良県葛城市にSEを派遣し住民向けアプリを15本開発した事例(大臣表彰受賞)があります。
案件規模感の目安:
- 派遣期間: 6か月〜3年(多くは1年〜2年)
- 1人あたり人件費(年額): 800万〜1,500万円(管理職クラス)
- 税軽減効果: 寄附額の最大9割(法人税6割+地方税2割+損金算入1割)
- 実質負担: 1年派遣で人件費の約1割(社員1人を派遣しながら本社人件費の9割が税で還流)
IT・DX領域の活用シナリオ詳細はIT・通信業界の活用事例、製造業のスマート工場・脱炭素分野は製造業の活用事例を参照してください。実質負担1割の試算ロジックはシミュレーション計算ガイドで解説しています。
よくある質問
Q: 派遣中の給与は誰が支払いますか?
派遣元の企業が引き続き給与を支払います。雇用関係は企業と社員の間で維持されたままです。その人件費が「寄附金」として扱われ、税額控除の対象になります。
Q: 派遣先での業務内容は誰が決めますか?
企業・自治体・派遣社員の三者で協議して決定します。地域再生計画に基づく事業の範囲内で、派遣社員のスキルを活かせる業務を設定します。
Q: 途中で派遣を中止できますか?
やむを得ない事情がある場合は、三者で協議のうえ変更・中止が可能です。派遣期間中に実際に従事した分の人件費は寄附金として認められます。
Q: 通常型の寄附と併用できますか?
はい、併用可能です。金銭による寄附と人材派遣型を同時に活用している企業もあります。
Q: 中小企業でも利用できますか?
企業規模に制限はありません。実際に中小企業が地域密着型の人材派遣を行っている事例もあります。派遣形態(週数日・時短勤務など)を柔軟に設定できるため、社員数が限られる中小企業でも活用しやすい制度です。
まとめ
人材派遣型の企業版ふるさと納税は、税軽減効果と人材育成を同時に実現できるユニークな制度です。特にDX人材やマーケティング人材を持つ企業にとって、社員の成長機会と社会貢献を両立できる選択肢になります。まずは事業一覧から関心のある分野を探し、自治体に人材派遣の可能性を相談してみてはいかがでしょうか。
テーマ別のCSRガイド
派遣先のテーマが決まっている場合、以下のCSR担当者向けガイドで同じテーマの一般的な寄附先の選び方と稟議ストーリーを整理できます。人材派遣型と通常型(金銭)の併用設計にも役立ちます。
- CSR担当者のための 企業版ふるさと納税×農業 完全ガイド — 担い手育成・スマート農業・六次産業化に派遣したい方へ
- CSR担当者のための 企業版ふるさと納税×気候変動 完全ガイド — 脱炭素ロードマップ策定・再エネ計画に派遣したい方へ
- CSR担当者のための 企業版ふるさと納税×防災 完全ガイド — DX防災・事前復興計画に派遣したい方へ
- CSR担当者のための 企業版ふるさと納税×教育 完全ガイド — 教育DX・こども施設・人材育成分野に派遣したい方へ
- CSR担当者のための 企業版ふるさと納税×生物多様性 完全ガイド — 自然保護・ネイチャーポジティブ推進に派遣したい方へ
実務手続き全体の流れは企業版ふるさと納税の手続き完全ガイド、税額控除の計算は控除上限額と計算方法もあわせてどうぞ。