この動画でダン・パロッタは、私たちが「慈善」や非営利セクターについて教えられてきた考え方そのものが、解決したい社会問題を解決できなくしている、と論じます。営利セクターには許されるのに非営利には禁じられる「5つの差別」を挙げ、特に「間接費(オーバーヘッド)の比率」を問う発想が組織の成長を阻むと主張します。動画はこちら: The way we think about charity is dead wrong|Dan Pallotta|TED。
これは海外TEDトークに登壇したダン・パロッタ個人の見解の要点であり、査読を経た研究ではありません。本記事は字幕の内容を要約・翻訳・再構成したもので、登壇者の主張は「〜と述べる」「〜と論じる」という形で記述しています。数値や事例はすべて登壇者がトーク内で語ったものです。
この動画の主張は何か
パロッタは、ビジネスや「ソーシャルビジネス」が多くの人々を前進させると自分も信じている一方で、市場で値段をつけられない領域が残ると述べます。彼は知的障害のある人々のためのセンターの理事を務めており、こうした人々が求める「笑い・思いやり・愛」をどう収益化できるのか、と問いかけます。そこにこそ非営利セクターと慈善活動(philanthropy)が必要であり、慈善とは「愛のための市場(the market for love)」だと表現します。つまり、誰一人取り残さない世界を本気で望むなら、非営利セクターはその実現に向けた真剣な議論の一部でなければならない、というのが出発点です。
なぜ社会問題が解決しないのか
パロッタは、乳がんの慈善団体が乳がんの治療法を見つけられず、ホームレス支援団体が大都市のホームレス問題を終わらせられず、米国の貧困率が40年間12%付近で動かないのはなぜか、と問います。彼の答えは、社会問題は規模が巨大なのに、組織はそれに対して小さすぎること、そして「組織を小さいままにしておく信念体系」を私たちが持っていることだ、と論じます。
彼によれば、私たちには2冊のルールブックがある——非営利セクター用と、それ以外の経済世界用です。これは一種の「アパルトヘイト」であり、非営利セクターを5つの領域で不利に扱っている、と述べます。
営利と非営利を分ける「5つの差別」とは
パロッタが挙げる5つの領域は以下のとおりです(いずれも彼のトーク内の主張です)。
1. 報酬(compensation)
営利では生み出した価値が大きいほど多く稼げるが、非営利では「人助けで大金を稼ぐ」ことに私たちは本能的な抵抗を感じる、と彼は述べます。子ども向けの暴力的ゲームで5,000万ドル稼ぐのは称賛されても、マラリアの治療で50万ドル稼ごうとすると「寄生虫」扱いされる、と対比します。彼が紹介した数値では、ビジネススクール卒業10年後のスタンフォードMBA(38歳)のボーナス込み中央値報酬は40万ドル。一方、同じ年の米国の年間収益500万ドル超の医療系慈善団体CEOの平均給与は23万2,000ドル、飢餓対策の慈善団体では8万4,000ドルだったといいます。彼は、40万ドル稼げる人材に毎年31万6,000ドルの犠牲を求めても集まらず、有能な人材が営利セクターへ流れていく、と論じます。
2. 広告とマーケティング(advertising and marketing)
営利には「最後の1ドルが価値を生まなくなるまで広告に使え」と言うのに、慈善では寄付が広告に使われることを嫌う、と彼は指摘します。彼の会社は1990年代に「AIDS Ride(自転車の旅)」や「乳がん3日間ウォーク」を企画し、9年間で18万2,000人の参加者が合計5億8,100万ドルを集めたといいます。これは「ニューヨーク・タイムズ」「ボストン・グローブ」の全面広告やゴールデンタイムのラジオ・テレビ広告で集めたもので、コインランドリーにチラシを貼っていたらこの規模には届かなかった、と述べます。米国の慈善寄付は1970年代に測定を始めて以来GDPの2%で止まっており、これは非営利が営利からシェアを奪えていない証拠だ、と論じます。
3. 新しい収益アイデアのためのリスクテイク(taking of risk)
ディズニーが2億ドルの新作映画を作って失敗しても誰も司法長官を呼ばないが、貧困層向けの100万ドルの募金イベントが最初の12か月で75%の利益を出せないと人格が疑われる、と彼は述べます。失敗を禁じればイノベーションは死に、収益を増やせず、成長できず、大きな社会問題は解決できない、という論理を示します。
4. 時間(time)
アマゾンは6年間投資家に利益を返さず、人々は長期的な市場支配という目標を理解して我慢した、と彼は述べます。しかし非営利が「6年間は資金を成長に投じ、困っている人へは回さない」という夢を描けば、「磔(はりつけ)」にされるだろう、と論じます。
5. 利益(profit)そのもの
営利は新しいアイデアのために利益を約束して資本を集められるが、非営利では利益を払えない、と彼は述べます。その結果、営利は数兆ドル規模の資本市場を独占し、非営利は成長・リスク・アイデアのための資本に飢えている、と論じます。
彼が引用した数値: 1970年から2009年にかけて、年間収益5,000万ドルの壁を越えて本当に成長した非営利は144。同じ期間に同じ壁を越えた営利は4万6,236(トーク内の表現に基づく)。彼はこれを、規模を生み出せない非営利と、すべての規模がコカ・コーラやバーガーキングに行く現状の対比として示します。
なぜこんな考え方になったのか
パロッタは、この考え方は古いピューリタン(清教徒)の信念に由来する、と論じます。彼らは信仰のためにアメリカへ来たが、大金を稼ぐためでもあり、敬虔でありながら積極的な資本家でもあった、と述べます。同時にカルヴァン派として自己利益を「永遠の破滅への近道」と教えられていたため、「金儲けは地獄行き」という矛盾を抱えた。その解決策が慈善であり、慈善は金儲けへの「贖罪(ざんげ)」の場、いわば「1ドルにつき5セントの償い」になった、と説明します。だからこそ慈善で金を稼ぐことは矛盾とされ、金銭的インセンティブは人助けの領域から追放された——そして400年間、それが逆効果で不公平だと指摘する声がなかった、と論じます。
「間接費は何%か」という問いの何が問題か
パロッタは、このイデオロギーを取り締まるのが「私の寄付のうち何%が事業(cause)に行き、何%が間接費(overhead)に行くのか」という1つの危険な問いだ、と述べます。彼はこの問いの2つの問題を挙げます。
- 第一に、間接費を「悪」と思わせる。しかし、特に成長に使われるなら間接費は事業そのものの一部だ、と彼は論じます。
- 第二に、組織が本当に必要な間接費(募金活動など)を削らざるを得なくなる。「募金に使う金が少ないほど事業に回る金が増える」という考えは、パイの大きさが変えられない世界でのみ正しい。投資が募金額を増やしパイを大きくできるなら、私たちは逆に募金へもっと投資すべきだ、と述べます。
具体例として、AIDS Ridesは5万ドルのリスク資本から始め、9年で1,982倍の1億800万ドル(エイズ支援サービス費用差引後)に、乳がん3日間ウォークは35万ドルから5年で554倍の1億9,400万ドル(乳がん研究費用差引後)に増やした、と彼は語ります。最も成功した2002年には乳がん向けだけで(全費用差引後)7,100万ドルを集めた、とも述べます。
パロッタの問い(要約): 乳がんに関心のある寄付者なら、最も革新的な研究者に35万ドルを渡すのと、その人に募金部門を作る35万ドルを渡して1億9,400万ドルへ増やすのと、どちらが理にかなうか。
「成功した事業」がなぜ廃業したのか
パロッタは、自社が突然・痛ましく廃業した経緯を語ります。総額の40%を募集・顧客サービス・体験の質に投資していたことでメディアに「磔」にされ、スポンサーが離反した。「成長・未来への投資」を表す会計用語がなく、ただ「間接費」という悪魔的なラベルしかなかった、と述べます。ある日、350人の従業員が「間接費」と呼ばれたために職を失い、スポンサーが自前でイベントを行った結果、間接費は上がり、乳がん研究への純収益は1年で84%(6,000万ドル)減少した、と語ります。これを彼は「道徳と倹約を混同したときに起きること」と表現します。
彼は、5%の間接費のバザーと40%の間接費のプロの募金事業を比べるとき、最も重要な情報——「パイの実際の大きさ」——を見落としていると論じます。バザーが慈善に71ドルしか残さず、プロの募金事業が7,100万ドルを残すなら、どちらのパイを選ぶか、と問います。
規模を変えると何が起きうるか
パロッタによれば、米国の慈善寄付はGDPの約2%、年間およそ3,000億ドル。しかしそのうち保健・福祉(Health and Human Services)分野に行くのは約20%、600億ドルにすぎず、残りは宗教・高等教育・病院などに向かう、といいます。もし寄付をGDPの2%から3%へ「一段」引き上げられれば、年間1,500億ドルの追加寄付になり、それが成長を促された保健・福祉分野に偏って流れれば、同分野への寄付は3倍になりうる、と試算を述べます。ただしこれは、組織に間接費を低く抑えるという「士気をくじく目標」を強いている限り起こらない、と論じます。
彼の結びの主張は明快です。次に慈善団体を見るときは間接費の比率を尋ねるのではなく、「夢の規模」「その進捗をどう測るか」「実現に必要な資源は何か」を問うべきだ——間接費が何%かは、問題が実際に解決されるなら誰が気にするのか、と述べます。
日本企業のCSR・経営企画への示唆
このトークは特定地域や制度の話ではなく、寄付や社会貢献の「成果」をどう評価するかという普遍的な問いを投げかけています。日本企業のCSR・サステナビリティ・経営企画の文脈に引きつけると、寄付先や社会貢献プログラムを「経費率の低さ」だけで評価する発想は、支援先団体の成長余地を狭めうる、というのがパロッタの論理から導ける観点です。彼の主張に沿えば、評価軸は「間接費が低いか」ではなく「どれだけの規模の課題を、どれだけ解決に近づけたか(達成スケールと進捗の測り方)」に置き換えうる——という見方ができます。あくまで登壇者個人の見解として、自社の社会貢献の効果検証の枠組みを見直す一つの視点になるでしょう。なお、企業の寄付と財務・経営の関係については、関連する論点を企業の寄付は業績に効くかで、企業の寄附に関する記事は企業の寄附ハブでまとめています。
よくある質問(FAQ)
このトークの中心的な主張は何ですか
営利セクターには許されるのに非営利には禁じられる5つの領域(報酬・広告・リスクテイク・時間・利益)があり、特に「間接費の比率」で慈善を評価する発想が組織の成長を阻み、巨大な社会問題の解決を妨げている、というのがパロッタの主張です。
「5つの差別」とは具体的に何ですか
(1)報酬で人材を引き寄せられない、(2)営利と同規模で広告できない、(3)新規顧客獲得のためのリスクを取れない、(4)成果を出す時間的猶予が同等にない、(5)資金調達のための株式市場(利益)を持てない——の5つだと彼は述べます。
「間接費(オーバーヘッド)」を悪と見なすのはなぜ問題なのですか
パロッタは、間接費は事業の一部であり、特に成長(募金活動など)に使われるなら寄付額そのものを増やす力を持つ、と論じます。間接費を低く抑えることを求めると、組織は成長に必要なものを削らざるを得ず、結果としてパイ(事業に使える総額)が小さいままになる、と述べます。
トークで示された数値は信頼できる研究結果ですか
本記事の数値はすべて、パロッタがTEDトーク内で語った内容です。査読研究ではなく登壇者の見解・自身の事業経験に基づく主張として扱ってください。