このトークでキャサリン・フルトンは、フィランソロピー——寄付や社会貢献——を、もう一度見直す必要があると訴えます。動画はこちら: You are the future of philanthropy|Katherine Fulton|TED2007。
以下は2007年のTEDカンファレンスに登壇したキャサリン・フルトン(フィランソロピー戦略家)の個人的見解の要点です。査読を経た研究ではなく、本記事は字幕の内容を要約・翻訳・再構成したもので、登壇者の主張は「〜と述べる」「〜と論じる」という形で記述しています。固有名詞や事例はすべてトーク内で語られたものです。
約100年前、財団という形が生まれたとき、それは慈善のあり方を再設計する試みでした。当時の人々は、自分たちが「閉じている」「変化に遅れる」「小さくリスクを避けがち」だとは思っていなかった。しかし20世紀末には、批評家や改革者たちが、まさにそのようにフィランソロピーを見始めた。いま起きているのは、こうした古い前提をひっくり返し、フィランソロピーを「開かれた」「大きな」「速い」「つながった」長期志向の営みへと再編する動き——それが、彼女の出発点です。
このトークが言う「フィランソロピーの民主化」とは何か
フルトンは、ゲイツ財団やソロス、グーグルといった誰もが知る巨大なフィランソロピーに深入りせず、「私たち全員のフィランソロピー」——つまり、フィランソロピーの民主化——に焦点を当てたいと述べます。いまは平均的な個人が、かつてないほど大きな力を握っている瞬間だ、と彼女は強調します。フィランソロピーとは、お金だけでなく「時間と才能」を提供することでもある——この点が、民主化の鍵を握っていると語ります。
登壇者が挙げる「5つの実験」とは
フルトンは、それぞれが古い前提に挑む5つの実験のカテゴリーを紹介します(いずれもトーク内の主張)。
1. 大衆協働(mass collaboration)
ウィキペディアがその代表例です。彼女はクレイ・シャーキーの言葉を引用し、「私たちは小さなことは愛のために、大きなことはお金のために行う世界に生きてきた。いまやウィキペディアがある。突然、大きなことが愛のためにできるようになった」と述べます。ポール・ホーケンの著書『Blessed Unrest』と、同時に立ち上がったWISER(World Index for Social and Environmental Responsibility)というwikiサイト群を例に挙げ、これは「人類史上最大かつ最も急成長している運動」を記録し結びつける試みだと語ります。こうした「愛のための大きなこと」の多くは、離陸しないまま終わる。でも成功するものは、人類史上最も開かれて、速く、つながったフィランソロピーになるだろう。
2. オンラインのフィランソロピー市場(online philanthropy marketplaces)
商業のeBayやアマゾンにあたる存在。彼女はこれをピア・ツー・ピアのフィランソロピーと定義します。これは「組織化されたフィランソロピーは大富豪のためだけのもの」という前提に挑む試みです。DonorsChoose——寄付者が教室に直接つながり、教師が必要とするものを応えるプラットフォーム——や、TED参加者が始めたChanging the Present、そして一国全体を対象とするGiveIndiaを例に挙げます。
3. 寄付の集約(aggregated giving)
ウォーレン・バフェットが代表的です。彼女は、バフェットが2006年夏に行った歴史的な寄付が並外れて寛大だったことだけでなく、「すべての寄付者が自分のファンドや財団を持つべきだ」という前提に挑んだ点に注目します。共通の目標の下で人々を集め、より大きな視野で寄付や投資を束ねる新しいファンドが、数多く生まれています。ジャクリーン・ノヴォグラッツが率いるAcumen Fundを例に挙げ、これらはフィランソロピーにおけるベンチャーキャピタルや投資信託のような役割を果たしますが、ファンドの周囲にコミュニティが形成される点に「ひねり」があると論じます(Acumenが提唱する「Patient Capital(忍耐強い資本)」は、社会的成果を重視しつつ資金を循環させる代表的なモデルとして知られています)。
4. 競争型イノベーション(innovation competitions)
目に見える競争や賞が、最も困難な課題に才能と資金を引き寄せ、解決を加速させうる——そんな賭けです。これは「与える側や組織が中心」という前提を乗り越え、「問題そのものを中心に置く」発想。特に技術的・科学的な課題に力を発揮しうると述べます。
5. 社会的投資(social investing)
5つの中で最も規模の大きなカテゴリー。Xigi.netがその代表例です。彼女は、「ビジネスはビジネス、フィランソロピーは世界を変えたい人々の手段」という最大の前提に挑むものだと語ります。Xigiはトーク当時、すでに1,000の主体が社会的企業へ融資や出資を提供していると述べ、リターンを求める資本の一部でも社会的目的に向けられれば、生み出せる善は驚くほど大きくなると強調します。
これらの実験は何を意味するのか
最初の3つ——大衆協働・オンライン市場・寄付の集約——を思い浮かべれば、組織化されたフィランソロピーが「必ずしも財団のことではなく、残りの私たちのことだ」と再認識できる、とフルトンは述べます。さらに、これらが将来どう融合するかを想像します——たとえば、誰かが感動的な目標に1億ドルを出す。その条件として、世界中からの数百万の小さな寄付と「マッチング」される。そうして多くの人を巻き込み、目標への可視性と当事者意識を高める。こうした大型寄付は、非現実的ではない——彼女はトーク内の統計をもって、そう述べています。
登壇者は未来をどう描くのか
「私たちは新しい行動の仕方へと考えて入っていくのではなく、行動を通じて新しい考え方へと入っていく」と彼女は語ります。フィランソロピーは、目の前で自己再編成を起こしている。この新しい時代精神を、「開かれて、大きく、速く、つながり、そして長期的であってほしい」と表現します。同時に、実現には長い時間がかかり、粘り強さ(stamina)を持って取り組まなければ、すべてが一過性の流行に終わる、と警告します。彼女はこの未来像を「ソーシャル・シンギュラリティ」と呼び、環境劣化・大量破壊兵器・パンデミック・貧困といった破局の収束という恐れもある一方で、肯定的なソーシャル・シンギュラリティ——「希望と歴史が韻を踏む」未来も創れる——と論じます。そのためには、できるだけ速く成長し、変化し、学ぶことに自らを捧げる「新世代の市民リーダー」が必要だと述べます。
企業の寄付・社会貢献を考える読者への示唆
このトークは特定の制度の話ではなく、寄付や社会貢献を「誰が・どう担うか」という普遍的な問いを投げかけています。企業の社会貢献の文脈に置けば、寄付を一部の専門部署や経営層だけの活動と捉えるのではなく、従業員や顧客を含む多くの人の「時間と才能」を巻き込み、共通の目標のもとに束ねる——それが、フルトンの論理から導ける視点です。彼女の主張に沿えば、競争型の課題設定や、社員参加型の協働、外部のプラットフォームとの連携は、社会貢献の規模と当事者意識を同時に高める選択肢になり得ます。あくまで登壇者個人の見解として、自社の社会貢献の設計を見直す一つの視点になるでしょう。寄付・社会貢献の海外事例は海外フィランソロピー事例の体系化で、企業の寄附に関する記事全体は企業の寄附ハブでまとめています。
よくある質問(FAQ)
このトークの中心的な主張は何ですか
フィランソロピーが「開かれ・大きく・速く・つながった」長期志向の形へと作り変わりつつあり、その主役は巨大な財団だけでなく私たち一人ひとり(フィランソロピーの民主化)だ、というのがフルトンの主張です。
登壇者が挙げる「5つの実験」とは何ですか
(1)大衆協働(ウィキペディア)、(2)オンラインのフィランソロピー市場(DonorsChooseなど)、(3)寄付の集約(Acumen Fundなど)、(4)競争型イノベーション、(5)社会的投資(Xigi.net)の5つで、それぞれが古いフィランソロピーの前提に挑むと彼女は述べます。
「フィランソロピーの民主化」とはどういう意味ですか
巨大な財団や大富豪だけでなく、平均的な個人がかつてない力を持ち、お金だけでなく「時間と才能」を与えることでフィランソロピーに参加できるようになった状態を指す、とフルトンは述べます。
これらの実験はすぐに成果を生みますか
フルトンは、こうした実験の多くは離陸しないが、成功するものは人類史上最も開かれ・速く・つながった形になると述べます。同時に、実現には長い時間がかかり、粘り強く取り組まなければ一過性の流行に終わる、と警告しています。
このトークで語られた内容は研究結果ですか
いいえ。本記事の内容はすべて、フィランソロピー戦略家であるキャサリン・フルトンがTED2007トーク内で語った見解です。査読研究ではなく登壇者個人の主張・展望として扱ってください。