この記事は、ショーン・エイカーのTEDxトーク The happy secret to better work | Shawn Achor|TEDx の要点を、日本企業の人事・総務・経営企画・CSR担当者向けに日本語で紹介するものです。登壇者は、私たちが信じる「成功すれば幸福になる」という方程式は逆であり、幸福が先にあると脳のパフォーマンスが上がる、と語っています。
はじめに(位置づけ):本記事は海外TEDxトークに登場する登壇者本人の見解・経験の要約であり、査読を経た学術論文そのものではありません。トーク内で語られた数値や主張はあくまで登壇者の発言として紹介しています。エビデンスを体系的に確認したい方は、当サイトの研究記事 従業員ウェルビーイングのROIエビデンス をあわせてご覧ください。
このトークの核心:方程式を逆にする
エイカーは、多くの企業や学校が「もっと努力すれば成功する。成功すればもっと幸福になる」という方程式に従っていると述べます。しかし彼は、この考え方は「科学的に壊れていて、逆だ」と語ります。理由は二つ。第一に、脳は成功するたびに「成功」のゴールポストを動かしてしまうこと。良い成績を取れば次はもっと良い成績を、良い学校に入れば次はもっと良い学校を、と求め続けるため、幸福が常に先送りされてしまう、と説明します。
第二に、彼によれば脳は本来「逆の順番」で働きます。いまこの瞬間の前向きさ(ポジティビティ)を高めれば、脳は「ハピネス・アドバンテージ(幸福の優位)」を経験し、ネガティブ・ニュートラル・ストレス状態のときよりも明らかに良いパフォーマンスを発揮する、というのが彼の主張です。
登壇者が挙げた数値(すべて本人の発言として)
トークのなかでエイカーは、いくつかの具体的な数字を挙げています。以下はいずれも「登壇者がそう述べている」内容であり、断定的な一般法則として紹介するものではありません。
- 外部環境(external world)がわかっても、長期的な幸福のうち予測できるのは10%にすぎない。残りの90%は、脳が世界をどう処理するかによって予測される、と語ります。
- 仕事上の成功のうちIQで予測できるのは25%で、残りの75%は楽観性のレベル、ソーシャルサポート、そしてストレスを脅威ではなく挑戦と捉える能力によって予測される、と述べます。
- 脳がポジティブな状態のとき、生産性は31%高くなる、と語ります。
- 営業(sales)では37%成績が良くなる、と述べます。
- 医師は、ネガティブ・ニュートラル・ストレス状態のときよりも、ポジティブな状態のとき正しい診断にたどり着くのが19%速く、より正確になる、と語ります。
これらの背景として、彼は「ポジティブなときに分泌されるドーパミンには二つの働きがある。人を幸福にするだけでなく、脳の学習中枢をすべてオンにし、世界に違うかたちで適応できるようにする」と説明しています。
なぜ「平均」を研究すると平均にとどまるのか
エイカーは自身の専門であるポジティブ心理学について、印象的な比喩で語ります。統計の世界では、平均値を見つけるために「外れ値(アウトライアー)」を削除して回帰直線を引くのが定石だと言います。しかし、もし関心の対象が人の可能性・幸福・生産性・創造性であるなら、その手法は「科学によって平均という崇拝対象をつくり出しているだけ」だと指摘します。
そこで彼は、平均より上にいる人(外れ値)を削除するのではなく、「なぜこの人たちは曲線よりはるか上にいるのか」を意図的に研究すると述べます。目的は、人々を平均まで引き上げる方法ではなく、平均そのものを上に動かす方法を見つけることだ、というのが彼の立場です。
「私たちを形づくるのは必ずしも現実そのものではなく、脳が世界を見るレンズである」——エイカーは、このレンズを変えられれば、幸福だけでなく、あらゆる教育上・ビジネス上の成果も同時に変えられると語ります。
「ウェルネス週間」への違和感
エイカーは、ある名門ボーディングスクール(ニューイングランド地方)でのエピソードを紹介します。その学校は「ウェルネス週間」と称して、うつ、学校内暴力・いじめ、摂食障害、薬物使用といったテーマを夜ごとに扱っていました。それに対して彼は「それはウェルネス週間ではなく病気の週間だ」「病気がないことは健康ではない」と指摘したと語ります。起こりうるネガティブなことを並べるだけで、ポジティブな側面を語っていない、という問題提起です。
この視点は、企業の健康経営や従業員支援の設計を考えるうえでも示唆に富みます。リスク低減(病気を防ぐ)だけでなく、前向きさを積極的に育てる施策まで含めて初めて「健康」に近づく、という整理は、当サイトの 健康・ウェルビーイングのハブ でも扱うテーマと重なります。
脳を鍛える5つの2分間習慣(登壇者の提案)
では、いまこの瞬間の前向きさをどう高めるのか。エイカーは「私たちは、わずか2分間の取り組みを21日間続けることで、脳をより楽観的に、より成功しやすく再配線できる方法を見つけた」と語り、自身が関わったすべての企業で実践してきたという5つの習慣を挙げています。
- 感謝を3つ書く:毎日、新しく感謝できることを3つ書き出す。21日間続けると、脳がネガティブではなくポジティブを先にスキャンするパターンを保持し始める、と述べます。
- ポジティブな経験を1つ日記に書く:過去24時間に起きた前向きな経験を1つ書くことで、脳がそれを追体験できる、と語ります。
- 運動(エクササイズ):自分の行動が意味を持つことを脳に教える、という位置づけです。
- 瞑想(メディテーション):複数の作業を同時にこなそうとして生まれた「文化的なADHD」を克服し、目の前の課題に集中できるようにする、と説明します。
- 意識的な親切(conscious acts of kindness):メールの受信箱を開いたら、ソーシャルサポート・ネットワークの誰か1人を褒める/感謝するポジティブなメールを1通書く、という具体策を挙げます。
彼は、身体を鍛えるように脳を鍛えることで「幸福と成功の方程式を逆転させ、ポジティビティの波紋(ripples)を生み出せる」と締めくくっています。
人事・総務・経営企画の担当者にとっての読みどころ
このトークは査読研究ではなく、登壇者が世界45か国の学校や企業と関わってきた経験から語る見解です。それでも、職場づくりの観点から押さえておきたい論点は明確です。第一に、成果(成功)だけを動機づけの中心に置くと、幸福が常に先送りされ、かえってパフォーマンスを下げかねない、という指摘。第二に、わずか2分・21日間という、現場でも試しやすい粒度の習慣が提案されている点です。
ただし、これらの数値や効果はあくまで登壇者の主張です。社内施策として投資判断を行う際は、自社のデータや、より体系的なエビデンスとあわせて検討することをおすすめします。費用対効果の考え方については 従業員ウェルビーイングのROIエビデンス を参照してください。
従業員の健康投資から、地域への貢献へ
社内のウェルビーイングを高める取り組みは、社員のエンゲージメントや採用ブランディングにもつながります。その延長線上で、企業が「人を大切にする会社」という姿勢を社外にも示す手段の一つが、地域貢献です。たとえば企業版ふるさと納税を活用すれば、自治体の健康・福祉・子育て分野のプロジェクトを支援しながら、税制上の優遇(損金算入に加えた税額控除)を受けられます。従業員の幸福を起点に、社外への社会貢献まで一貫したストーリーを描きたい企業にとって、検討に値する選択肢です。自社に合う寄附先の方向性を知りたい場合は 無料のAI診断 もご活用ください。
よくある質問(FAQ)
このトークの一番のメッセージは何ですか?
「成功すれば幸福になる」のではなく「幸福が先にあると脳のパフォーマンスが上がり、成功が続く」という、方程式の逆転です。エイカーは、いまこの瞬間の前向きさを高めることが先決だと語っています。
「90%」「10%」とは何の数字ですか?
エイカーの発言によれば、長期的な幸福のうち外部環境から予測できるのは10%にすぎず、残りの90%は脳が世界をどう処理するか(レンズ)によって予測される、というものです。これは登壇者の主張として紹介しているもので、査読研究の確定値として扱うものではありません。
仕事の成功とIQの関係について何と言っていますか?
トーク内では、仕事上の成功のうちIQで予測できるのは25%で、残り75%は楽観性のレベル、ソーシャルサポート、ストレスを挑戦と捉える能力で予測される、と述べられています。
ポジティブな脳は具体的にどれくらい成果が変わると述べていますか?
登壇者は、ポジティブな状態の脳は生産性が31%高く、営業では37%成績が良くなり、医師は正しい診断にたどり着くのが19%速く正確になる、と語っています。いずれも本人の発言です。
脳を鍛える習慣はどんなものですか?
2分間の取り組みを21日間続ける、という枠組みのもとで、(1)感謝を3つ書く、(2)ポジティブな経験を1つ日記に書く、(3)運動、(4)瞑想、(5)意識的な親切(感謝・賞賛のメールを1通書く)の5つが挙げられています。