財務・経営・法務の承認を得て、寄附を実行した。次のフェーズは統合報告書・サステナビリティレポート・CSRレポートへの記載です。IR・サステナビリティ部門から「どう記載するのが適切か」という相談を受けたCSR担当者向けに、主要開示フレームワーク(GRI・SASB・ISSB・TCFD・TNFD・SDGs)との整合性をまとめます。
サステナビリティ開示の6フレームワーク対応
- GRI Standards: 経済パフォーマンス・間接的経済インパクト
- SASB: 業種別マテリアリティとの紐付け
- IFRS S1/S2(ISSB): サステナビリティ関連財務情報開示
- TCFD: 気候関連財務情報開示
- TNFD: 自然関連財務情報開示
- SDGs: 17目標との紐付け
統合報告書への記載4要素
統合報告書に企業版ふるさと納税の実施を記載する際は、以下の4要素を含めるのが定型です。
要素1: 活用事実の記載
基本情報を事実ベースで記載します。
記載定型フレーズ
「当社は○○年度、企業版ふるさと納税制度(地方創生応援税制)を活用し、○○県○○市の○○事業に対し○○○万円を寄附しました。本寄附は内閣府認定の地域再生計画に基づく事業であり、同地域における○○の社会課題解決に貢献します。」
要素2: マテリアリティとの紐付け
自社が特定したマテリアリティ(重要課題)と寄附先事業を明確に紐付けます。これが最も重要な差別化ポイントです。
| 自社マテリアリティ例 | 寄附先事業カテゴリ | 開示文例 |
|---|---|---|
| 気候変動対応 | 脱炭素・再エネ・森林保全 | 「当社マテリアリティ『気候変動対応』の外部パートナーシップ施策として実施」 |
| 人的資本経営 | 教育・こども・人材育成 | 「次世代育成を通じた社会的価値創出の取組として位置付け」 |
| 地域共生 | サプライチェーン地域の産業振興 | 「事業拠点地域との共生基盤構築の具体策として実施」 |
| 自然資本・生物多様性 | 30by30・TNFD対応事業 | 「ネイチャーポジティブ経済への移行支援として実施」 |
| 災害レジリエンス | 防災・復興・事前復興 | 「BCP・地域レジリエンス強化施策として位置付け」 |
要素3: 社会的インパクトの記述
寄附により実現された社会的インパクトを、定性的な記述で開示します。
記載例(気候変動分野): 「本寄附により○○市の再生可能エネルギー導入事業が推進され、年間約○○トンのCO2削減に寄与しました。同地域の公共施設への再エネ導入率は前年度比○%向上しています。」
要素4: 定量KPI
可能な範囲で、寄附による定量的成果を開示します。
| 分野 | 開示可能なKPI例 |
|---|---|
| 気候変動 | CO2削減量・再エネ導入MW・森林保全面積 |
| 教育 | 受益児童数・受講プログラム数・就学率改善 |
| 防災 | 防災訓練参加者数・備蓄整備率・ハザードマップ更新 |
| 農業・地域産業 | 就農者数・農産物売上増・地域雇用創出数 |
| 生物多様性 | 保全面積(ha)・OECM登録面積・再生種数 |
GRI Standardsでの開示
関連GRI指標
| GRI指標 | 内容 | 企業版ふるさと納税との関連 |
|---|---|---|
| GRI 201-1 | 創出・分配された直接的な経済価値 | 寄附額を「コミュニティへの投資」として計上 |
| GRI 203-1 | インフラ投資およびサービス支援 | 寄附先事業がインフラ支援に該当する場合 |
| GRI 203-2 | 大きな影響を及ぼす間接的な経済的インパクト | 地域経済・雇用への波及効果 |
| GRI 3 | マテリアル項目の開示 | マテリアリティと寄附の紐付け |
| GRI 413 | 地域コミュニティ | 地域コミュニティへの投資施策 |
SASBでの開示(業種別)
SASB Standardsは業種別にマテリアリティが異なるため、自社の業種に応じた開示項目を選定します。
| 業種 | SASBトピック | 開示アプローチ |
|---|---|---|
| 金融 | データセキュリティ・金融包摂 | 地域金融・中小企業支援分野への寄附を地域課題解決として開示 |
| IT・通信 | データプライバシー・労働慣行 | 地方DX・デジタル人材育成分野への寄附 |
| 製造業 | 環境影響・サプライチェーン | サプライチェーン地域の環境保全・地域産業振興 |
| 建設 | 環境影響・労働安全 | 地域防災・インフラ強靭化 |
ISSB(IFRS S1/S2)との整合
IFRS S1: 全般的サステナビリティ関連財務情報開示
IFRS S1では、サステナビリティ関連のリスクと機会を開示します。企業版ふるさと納税は「機会」として以下のセクションで言及可能です。
- ガバナンス: CSR活動に関する取締役会の監督体制
- 戦略: サステナビリティ戦略実行手段の一つとしての位置付け
- リスク管理: 寄附実行時の法務・コンプライアンスリスク管理プロセス
- 指標と目標: 年間寄附額・社会的インパクトKPI
IFRS S2: 気候関連開示
脱炭素・再エネ・森林保全等の気候変動関連寄附は、IFRS S2の「気候関連機会」として開示できます。
開示文例: 「当社は気候関連機会の具体化施策として、令和6年度に○○県○○市の再生可能エネルギー導入事業に○○万円を寄附。本施策は当社の2030年GHG削減目標達成に向けた地域連携の一環として位置付けています。」
SSBJ基準・有価証券報告書への記載
日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が策定する国内基準は、IFRS S1/S2と整合する形で 2025年3月5日に最終化(公表)されました(出典: SSBJ サステナビリティ開示基準(公表ページ))。背景として、TCFDは2023年10月に役割を終えてISSB(IFRS財団傘下)に統合され、TCFD推奨事項の進捗モニタリングは IFRS S2 を通じて継続されています(つまりTCFD単体での新規開示要請は停止し、IFRS S2/SSBJ基準への一本化が進む)。有価証券報告書のサステナビリティ情報欄については、金融庁の金融審議会ディスクロージャーWGが2024年6月に公表した「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方等に関する報告」で、プライム上場企業のうち時価総額3兆円以上を 2027年3月期から、1兆円以上を2028年3月期から、5,000億円以上を2029年3月期から段階的に強制適用する案が提示され、最終的な開示府令改正が進行中です。すなわち 令和9年3月期決算(2027年3月期)公表分から、CSR担当者の所属企業によってはSSBJ基準準拠のサステナ情報開示が法定化されると織り込んで、2025〜2026年度のうちに体制整備を進める必要があります。
有価証券報告書の記載ポイント(CSR担当者向け)
- 「サステナビリティに関する考え方及び取組」セクション: 企業版ふるさと納税の活用方針をマテリアリティ・気候戦略の文脈で言及(戦略・リスク管理・指標と目標の4本柱に対応)。
- 「事業の状況」セクション: 寄附先プロジェクトのうち事業所立地地域・サプライチェーン地域に関するものを「地域共生」観点で記載可能。
- 定量開示: 年間寄附総額・地域別寄附先数・テーマ別寄附比率(気候/防災/教育等)をサステナ関連指標として補助的に開示する企業が増加中。
- 監査対応: 有価証券報告書記載のサステナ情報は将来的に保証対象になる見込みのため、寄附事実・地域再生計画認定番号・内閣府への寄附変更届出済の証跡を経理・法務と共有しておく。
統合報告書(任意開示)と有価証券報告書(法定開示)では同じ事実でも記載粒度が異なります。法定開示側はSSBJ基準・金商法ベースで重要性判断とトレーサビリティが厳しく、CSR担当は寄附先選定の意思決定プロセス・社内承認ルート・定量KPIを裏付けデータとともに整理しておくことが重要です。
TCFD・TNFDとの紐付け
TCFD開示での扱い
気候関連寄附はTCFDの4本柱のうち「戦略」「指標と目標」セクションで記載します。
- 戦略: 自社の気候戦略における外部パートナーシップ施策として位置付け
- 指標と目標: 年間の気候関連寄附額、寄附による間接的なCO2削減貢献量
TNFD開示での扱い
生物多様性関連寄附はTNFDのLEAPアプローチ(Locate/Evaluate/Assess/Prepare)の「Prepare」段階の具体的な対応策として記載します。
開示文例: 「当社は自然関連依存・インパクト評価に基づき、優先対応領域として『サプライチェーン地域の森林保全』を特定。具体的施策として○○市の森林再生事業に○○万円を企業版ふるさと納税で寄附し、約○haの森林保全に貢献しています。」
気候・生物多様性分野の寄附先の具体的な選び方は、以下のCSRガイドで解説しています。
- 気候変動・脱炭素 ガイド(TCFD/IFRS S2整合)
- 生物多様性・ネイチャーポジティブ ガイド(TNFD/30by30整合)
- リジェネラティブ農業 専門ガイド(TNFD-Prepare/食料安全保障×サプライチェーン地域の自然再生)
SDGsとの紐付け
寄附先事業のテーマに応じて、関連するSDG目標を明示します。
| 寄附先事業テーマ | 主要SDG目標 | サブ目標 |
|---|---|---|
| 気候変動・脱炭素 | SDG 13(気候変動対策) | SDG 7(エネルギー)・SDG 15(陸上生態系) |
| 教育・こども | SDG 4(質の高い教育) | SDG 10(不平等是正)・SDG 5(ジェンダー) |
| 防災・復興 | SDG 11(住み続けられるまちづくり) | SDG 13・SDG 9(産業と技術革新) |
| 農業・食料 | SDG 2(飢餓をゼロに) | SDG 15・SDG 12(持続可能な生産と消費) |
| 生物多様性 | SDG 15(陸上生態系) | SDG 14(海洋生態系)・SDG 13 |
| 地域産業 | SDG 8(働きがい・経済成長) | SDG 9・SDG 11 |
他社の記載事例パターン
既に統合報告書・サステナビリティレポートで企業版ふるさと納税を開示している企業の記載パターンを3つに類型化します。
パターン1: 社会貢献活動一覧型
CSR活動の一覧の中に「企業版ふるさと納税による寄附」の項目を設け、金額と寄附先を簡潔に記載する最もシンプルなパターン。中堅以下の企業で多い。
パターン2: マテリアリティ連動型
各マテリアリティの章で、該当する企業版ふるさと納税の寄附を具体的施策として記載するパターン。サステナビリティ戦略との整合性が明確で、大手上場企業で増加中。
パターン3: ケーススタディ型
特定の寄附プロジェクトを1〜2ページのケーススタディとして取り上げ、社会的インパクト・自治体との協働プロセス・KPIを詳述するパターン。ESG評価機関・機関投資家から評価される傾向。
大臣表彰受賞事業に名を連ねる実在企業の記載傾向
内閣府が公表する地方創生応援税制活用事業表彰(地方創生担当大臣表彰)の取組事例集(PDF)には、認定を受けた地域再生計画ごとに寄附企業名が明記されています。これらの寄附企業のうちサステナビリティレポート・統合報告書を公表している主な法人と、当サイトが受賞事業ページから確認できる代表的な寄附事実を以下にまとめます(CSR担当者が自社の記載パターン選定時に「他社と整合した粒度の開示か」を判断するベンチマーク)。詳細な受賞事業リストは 地方創生応援税制活用事業表彰の受賞自治体・寄附企業まとめ を参照してください。
| 寄附企業(公表PDF掲載) | 関連する受賞事業 | 想定される記載パターン |
|---|---|---|
| 三菱UFJ銀行 | 第3回(令和2年度)受賞事業の寄附企業として内閣府事例集に明記 | パターン1(社会貢献活動一覧型)/コミュニティ投資カテゴリで言及 |
| 第一生命保険 | 第3回(令和2年度)受賞事業の寄附企業として内閣府事例集に明記 | パターン2(マテリアリティ連動型)/地域共生・健康長寿マテリアリティに紐付け |
| 野村アセットマネジメント | 第3回(令和2年度)受賞事業の寄附企業として内閣府事例集に明記 | パターン2(マテリアリティ連動型)/責任投資・スチュワードシップ文脈で言及 |
| KDDI | 第4回(令和3年度)大川村「日本ではじめてのスマホ普及率100%」事業の寄附企業として内閣府事例集に明記 | パターン3(ケーススタディ型)/地方DX・デジタルディバイド解消の具体事例として詳述しやすい |
| 両備ホールディングス | 第7回(令和6年度)真庭市受賞事業で人材派遣型による観光人材支援 | パターン3(ケーススタディ型)/地域共生・人的資本シナジーで詳述 |
※上記は当サイトが内閣府公表の取組事例集 PDF(例: 第3回事例集・第4回事例集)から確認できる寄附企業と受賞事業の対応関係。各企業の最新の統合報告書・サステナビリティレポートでの記載有無・粒度は、各社IRページで確認してください。「想定される記載パターン」はCSR担当者が自社開示を設計する際のベンチマークとして当サイトが本ガイドの3類型に基づき整理したものです。
統合報告書記載テンプレート
マテリアリティ連動型の記載テンプレート
[マテリアリティ: ○○]
当社は○○を重要課題として特定し、以下の取組を推進しています。
■ 企業版ふるさと納税による地方創生支援
○○年度、企業版ふるさと納税制度(地方創生応援税制)を活用し、○○県○○市の○○事業に○○○万円を寄附しました。本寄附は内閣府認定の地域再生計画に基づく事業であり、当社マテリアリティ「○○」の外部パートナーシップ施策として位置付けています。
社会的インパクト: ○○(定性的記述)
KPI: ○○(定量的指標)
関連SDG: SDG ○○・SDG ○○
関連開示フレーム: TCFD戦略/TNFD-Prepare/IFRS S2機会
よくある質問
Q: 寄附額が少額でも統合報告書に記載すべきですか?
金額の大小よりも、マテリアリティとの整合性が重要です。100万円の寄附でも戦略的に重要な取組であれば記載価値があります。逆に1,000万円の寄附でもマテリアリティと無関係であれば、CSR活動一覧への簡潔な記載にとどめる方が開示の一貫性が保たれます。
Q: 税軽減効果を開示すべきですか?
税軽減効果そのものを強調することは推奨されません。企業版ふるさと納税の制度趣旨は地方創生への貢献であり、税メリットは副次的な効果です。統合報告書では「寄附額」「社会的インパクト」を中心に記載し、税軽減効果は財務関連セクション(税務戦略等)で補足的に言及する方が、ESG評価機関からの評価も高まります。
Q: 寄附先の社会的インパクトをどう測定すればよいですか?
寄附先自治体と協働してKPIを設計することが理想です。事業の進捗報告を自治体から受ける際に、数値データ(受益者数・整備面積・雇用創出数等)を一緒に収集し、統合報告書の開示に反映します。インパクト評価にはTheory of ChangeやSROI(Social Return on Investment)のフレームワークを活用する企業も増えています。
Q: 第三者保証は必要ですか?
企業版ふるさと納税の開示自体に第三者保証が必須ではありませんが、統合報告書全体としての信頼性を高めるため、監査法人・コンサルによるGRI準拠確認やISAE3000準拠保証を取得する企業が増えています。寄附額は経理処理と紐付くため、財務諸表監査の過程で自動的に確認される項目です。
Q: ESG格付け機関(MSCI・Sustainalytics等)にはどう開示すべきですか?
ESG格付け機関のアンケート・質問票への回答では、「コミュニティ投資」「地域社会への貢献」のカテゴリで企業版ふるさと納税の実施を明記します。寄附額・寄附先・社会的インパクトをそれぞれ定量的に回答できるよう、記録を整備しておくことが重要です。格付け機関によっては、寄附先の事業が認定制度に基づくこと(ガバナンスの観点で高評価)をアピールできます。
まとめ: 統合報告書記載の3鉄則
- マテリアリティとの紐付け: 単なる金額開示でなく戦略整合性を明確化
- 社会的インパクトの開示: 定性・定量両面でアウトカムを記述
- 開示フレームとの整合: GRI・SASB・ISSB・TCFD・TNFD・SDGsとの紐付け
社内説得シリーズ: 財務部門への説明ガイド | 役員会プレゼンガイド | 法務・コンプラチェックリスト
CSRテーマ別ガイド: 気候変動・脱炭素 | 教育・こども | 防災・復興 | 農業・一次産業 | 生物多様性・ネイチャーポジティブ