結論: 統合報告書・CSRレポートへの記載例と開示項目
開示項目は4要素 — ①活用事実(寄附額・寄附先自治体・地域再生計画名)/②マテリアリティとの紐付け/③社会的インパクト(定性・定量)/④定量KPI。
記載例(そのまま流用可):
「当社は○○年度、企業版ふるさと納税制度(地方創生応援税制)を活用し、○○県○○市の『○○事業』(内閣府認定地域再生計画)に対し○○○万円を寄附しました。本寄附は当社マテリアリティ『地域社会との共生』に対応するもので、同地域における○○の社会課題解決に貢献します。」
掲載先による書き分け: 統合報告書=マテリアリティ紐付けを主役に(価値創造ストーリー内)/有価証券報告書=「サステナビリティに関する考え方及び取組」でガバナンス・戦略の記述に接続(金額の重要性が低い場合は無理に個別記載しない)/サステナビリティレポート・CSRレポート=事業単位の実績と社会的インパクトを詳述。フレームワーク別の対応は以下に整理します。
財務・経営・法務の承認を得て、寄附を実行した。次のフェーズは統合報告書・サステナビリティレポート・CSRレポートへの記載です。IR・サステナビリティ部門から「どう記載するのが適切か」という相談を受けたCSR担当者向けに、主要開示フレームワーク(GRI・SASB・ISSB・TCFD・TNFD・SDGs)との整合性をまとめます。
サステナビリティ開示の6フレームワーク対応
- GRI Standards: 経済パフォーマンス・間接的経済インパクト
- SASB: 業種別マテリアリティとの紐付け
- IFRS S1/S2(ISSB): サステナビリティ関連財務情報開示
- TCFD: 気候関連財務情報開示
- TNFD: 自然関連財務情報開示
- SDGs: 17目標との紐付け
統合報告書への記載4要素
統合報告書に企業版ふるさと納税の実施を記載する際は、以下の4要素を含めるのが定型です。
要素1: 活用事実の記載
基本情報を事実ベースで記載します。
記載定型フレーズ
「当社は○○年度、企業版ふるさと納税制度(地方創生応援税制)を活用し、○○県○○市の○○事業に対し○○○万円を寄附しました。本寄附は内閣府認定の地域再生計画に基づく事業であり、同地域における○○の社会課題解決に貢献します。」
要素2: マテリアリティとの紐付け
自社が特定したマテリアリティ(重要課題)と寄附先事業を明確に紐付けます。これが最も重要な差別化ポイントです。
| 自社マテリアリティ例 | 寄附先事業カテゴリ | 開示文例 |
|---|---|---|
| 気候変動対応 | 脱炭素・再エネ・森林保全 | 「当社マテリアリティ『気候変動対応』の外部パートナーシップ施策として実施」 |
| 人的資本経営 | 教育・こども・人材育成 | 「次世代育成を通じた社会的価値創出の取組として位置付け」 |
| 地域共生 | サプライチェーン地域の産業振興 | 「事業拠点地域との共生基盤構築の具体策として実施」 |
| 自然資本・生物多様性 | 30by30・TNFD対応事業 | 「ネイチャーポジティブ経済への移行支援として実施」 |
| 災害レジリエンス | 防災・復興・事前復興 | 「BCP・地域レジリエンス強化施策として位置付け」 |
要素3: 社会的インパクトの記述
寄附により実現された社会的インパクトを、定性的な記述で開示します。
記載例(気候変動分野): 「本寄附により○○市の再生可能エネルギー導入事業が推進され、年間約○○トンのCO2削減に寄与しました。同地域の公共施設への再エネ導入率は前年度比○%向上しています。」
要素4: 定量KPI
可能な範囲で、寄附による定量的成果を開示します。
| 分野 | 開示可能なKPI例 |
|---|---|
| 気候変動 | CO2削減量・再エネ導入MW・森林保全面積 |
| 教育 | 受益児童数・受講プログラム数・就学率改善 |
| 防災 | 防災訓練参加者数・備蓄整備率・ハザードマップ更新 |
| 農業・地域産業 | 就農者数・農産物売上増・地域雇用創出数 |
| 生物多様性 | 保全面積(ha)・OECM登録面積・再生種数 |
GRI Standardsでの開示
関連GRI指標
| GRI指標 | 内容 | 企業版ふるさと納税との関連 |
|---|---|---|
| GRI 201-1 | 創出・分配された直接的な経済価値 | 寄附額を「コミュニティへの投資」として計上 |
| GRI 203-1 | インフラ投資およびサービス支援 | 寄附先事業がインフラ支援に該当する場合 |
| GRI 203-2 | 大きな影響を及ぼす間接的な経済的インパクト | 地域経済・雇用への波及効果 |
| GRI 3 | マテリアル項目の開示 | マテリアリティと寄附の紐付け |
| GRI 413 | 地域コミュニティ | 地域コミュニティへの投資施策 |
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SASBでの開示(業種別)
SASB Standardsは業種別にマテリアリティが異なるため、自社の業種に応じた開示項目を選定します。
| 業種 | SASBトピック | 開示アプローチ |
|---|---|---|
| 金融 | データセキュリティ・金融包摂 | 地域金融・中小企業支援分野への寄附を地域課題解決として開示 |
| IT・通信 | データプライバシー・労働慣行 | 地方DX・デジタル人材育成分野への寄附 |
| 製造業 | 環境影響・サプライチェーン | サプライチェーン地域の環境保全・地域産業振興 |
| 建設 | 環境影響・労働安全 | 地域防災・インフラ強靭化 |
ISSB(IFRS S1/S2)との整合
IFRS S1: 全般的サステナビリティ関連財務情報開示
IFRS S1では、サステナビリティにかかわるリスクと機会を開示する必要があります。企業版ふるさと納税は、「機会」として以下のセクションで言及できる可能性があります。
- ガバナンス: CSR活動における取締役会の監視体制
- 戦略: サステナビリティ戦略の実行手段の一つとしての位置づけ
- リスク管理: 寄附実行時の法務・コンプライアンスリスク管理プロセス
- 指標と目標: 年間寄附額や社会的インパクトを測るKPI
IFRS S2: 気候関連開示
脱炭素や再生可能エネルギー、森林保全といった気候変動対応の寄附は、IFRS S2における「気候関連機会」として開示可能です。
開示文例: 「当社は気候関連機会の具体化施策として、令和6年度に○○県○○市の再生可能エネルギー導入事業に○○万円を寄附。本施策は当社の2030年GHG削減目標達成に向けた地域連携の一環として位置づけています。」
SSBJ基準・有価証券報告書への記載
日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が策定する国内基準は、IFRS S1/S2と整合する形で 2025年3月5日に最終化(公表)されました(出典: SSBJ サステナビリティ開示基準(公表ページ))。背景には、TCFDが2023年10月に役割を終え、ISSB(IFRS財団傘下)に統合されたことがあり、TCFD推奨事項の進捗モニタリングはIFRS S2を通じて継続されています。つまり、TCFD単体での新規開示要請は停止し、IFRS S2やSSBJ基準への一本化が進んでいます。
有価証券報告書のサステナビリティ情報欄については、金融庁の金融審議会ディスクロージャーWGが2024年6月に公表した「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方等に関する報告」で、プライム上場企業のうち時価総額3兆円以上を 2027年3月期から、1兆円以上を2028年3月期から、5,000億円以上を2029年3月期から段階的に強制適用する案が提示されています。最終的な開示府令改正は現在進行中です。つまり、令和9年3月期決算(2027年3月期)公表分から、CSR担当者の所属企業によってはSSBJ基準準拠のサステナ情報開示が法定化されると見込まれ、2025〜2026年度のうちに体制整備を進めなければなりません。
有価証券報告書の記載ポイント(CSR担当者向け)
- 「サステナビリティに関する考え方及び取組」セクション: 企業版ふるさと納税の活用方針をマテリアリティや気候戦略の文脈で言及(戦略・リスク管理・指標と目標の4本柱に対応)。
- 「事業の状況」セクション: 寄附先プロジェクトのうち、事業所立地地域やサプライチェーン地域に関するものを「地域共生」観点で記載可能。
- 定量開示: 年間寄附総額・地域別寄附先数・テーマ別寄附比率(気候/防災/教育等)をサステナ関連指標として補助的に開示する企業が増加中。
- 監査対応: 有価証券報告書に記載するサステナ情報は将来的に保証対象になる見込み。寄附事実・地域再生計画認定番号・内閣府への寄附変更届出済の証跡は、経理・法務と共有しておく。
統合報告書(任意開示)と有価証券報告書(法定開示)では、同じ事実でも記載の粒度が異なります。法定開示側はSSBJ基準・金商法に基づき、重要性判断とトレーサビリティが厳しく求められます。CSR担当者は、寄附先選定の意思決定プロセス・社内承認ルート・定量KPIを裏付けるデータを、事前に整理しておきましょう。
TCFD・TNFDとの紐付け
TCFD開示での扱い
気候関連の寄附は、TCFDの4本柱のうち「戦略」と「指標と目標」のセクションで扱えます。
- 戦略: 自社の気候戦略における外部パートナーシップ施策として位置づけ
- 指標と目標: 年間の気候関連寄附額、寄附による間接的なCO2削減貢献量
TNFD開示での扱い
生物多様性関連の寄附は、TNFDのLEAPアプローチ(Locate/Evaluate/Assess/Prepare)の「Prepare」段階における具体的な対応策として記載できます。
開示文例: 「当社は自然関連依存・インパクト評価に基づき、優先対応領域として『サプライチェーン地域の森林保全』を特定。具体的施策として○○市の森林再生事業に○○万円を企業版ふるさと納税で寄附し、約○haの森林保全に貢献しています。」
気候・生物多様性分野の寄附先選びについては、以下のCSRガイドで詳しく解説しています。
- 気候変動・脱炭素 ガイド(TCFD/IFRS S2整合)
- 生物多様性・ネイチャーポジティブ ガイド(TNFD/30by30整合)
- リジェネラティブ農業 専門ガイド(TNFD-Prepare/食料安全保障×サプライチェーン地域の自然再生)
SDGsとの紐付け
寄附先事業のテーマに応じて、関連するSDG目標を明示すると効果的です。内閣府25分類とSDGs17目標の対応関係を体系的に整理したSDGsマッピング・開示テンプレートガイドもあわせて参照してください。
| 寄附先事業テーマ | 主要SDG目標 | サブ目標 |
|---|---|---|
| 気候変動・脱炭素 | SDG 13(気候変動対策) | SDG 7(エネルギー)・SDG 15(陸上生態系) |
| 教育・こども | SDG 4(質の高い教育) | SDG 10(不平等是正)・SDG 5(ジェンダー) |
| 防災・復興 | SDG 11(住み続けられるまちづくり) | SDG 13・SDG 9(産業と技術革新) |
| 農業・食料 | SDG 2(飢餓をゼロに) | SDG 15・SDG 12(持続可能な生産と消費) |
| 生物多様性 | SDG 15(陸上生態系) | SDG 14(海洋生態系)・SDG 13 |
| 地域産業 | SDG 8(働きがい・経済成長) | SDG 9・SDG 11 |
他社の記載事例パターン
すでに統合報告書やサステナビリティレポートで企業版ふるさと納税を開示している企業の記載スタイルを、3つのパターンに分類できます。
パターン1: 社会貢献活動一覧型
CSR活動の一覧に「企業版ふるさと納税による寄附」を項目として設け、金額と寄附先を簡潔に記載する最もシンプルなスタイル。中堅以下の企業でよく見られます。
パターン2: マテリアリティ連動型
各マテリアリティの章で、該当する企業版ふるさと納税の寄附を具体的な施策として取り上げるスタイル。サステナビリティ戦略との整合性が明確で、大手上場企業で増加傾向にあります。
パターン3: ケーススタディ型
特定の寄附プロジェクトを1〜2ページにわたってケーススタディとして深掘りし、社会的インパクトや自治体との協働プロセス、KPIを詳細に記載するスタイル。ESG評価機関や機関投資家からの評価が高くなる傾向があります。
大臣表彰受賞事業に名を連ねる実在企業の記載傾向
内閣府が公表する地方創生応援税制活用事業表彰(地方創生担当大臣表彰)の取組事例集(PDF)には、認定された地域再生計画ごとに寄附企業名が明記されています。これらの寄附企業のうち、サステナビリティレポートや統合報告書を公表している主な法人と、当サイトが受賞事業ページから確認できる代表的な寄附事実を以下にまとめました(CSR担当者が自社の記載粒度を決める際のベンチマークとして活用ください)。詳細な受賞事業リストは 地方創生応援税制活用事業表彰の受賞自治体・寄附企業まとめ を参照してください。
| 寄附企業(公表PDF掲載) | 関連する受賞事業 | 想定される記載パターン |
|---|---|---|
| 三菱UFJ銀行 | 第3回(令和2年度)受賞事業の寄附企業として内閣府事例集に明記 | パターン1(社会貢献活動一覧型)/コミュニティ投資カテゴリで言及 |
| 第一生命保険 | 第3回(令和2年度)受賞事業の寄附企業として内閣府事例集に明記 | パターン2(マテリアリティ連動型)/地域共生・健康長寿マテリアリティに紐付け |
| 野村アセットマネジメント | 第3回(令和2年度)受賞事業の寄附企業として内閣府事例集に明記 | パターン2(マテリアリティ連動型)/責任投資・スチュワードシップ文脈で言及 |
| KDDI | 第4回(令和3年度)大川村「日本ではじめてのスマホ普及率100%」事業の寄附企業として内閣府事例集に明記 | パターン3(ケーススタディ型)/地方DX・デジタルディバイド解消の具体事例として詳述しやすい |
| 両備ホールディングス | 第7回(令和6年度)真庭市受賞事業で人材派遣型による観光人材支援 | パターン3(ケーススタディ型)/地域共生・人的資本シナジーで詳述 |
※上記は当サイトが内閣府公表の取組事例集 PDF(例: 第3回事例集・第4回事例集)から確認できる寄附企業と受賞事業の対応関係。各企業の最新の統合報告書・サステナビリティレポートでの記載有無・粒度は、各社IRページで確認してください。「想定される記載パターン」はCSR担当者が自社開示を設計する際のベンチマークとして当サイトが本ガイドの3類型に基づき整理したものです。
統合報告書記載テンプレート
マテリアリティ連動型の記載テンプレート
[マテリアリティ: ○○]
当社は○○を重要課題として位置づけ、以下の取り組みを進めています。
■ 企業版ふるさと納税による地方創生支援
○○年度、企業版ふるさと納税制度(地方創生応援税制)を活用し、○○県○○市の○○事業に○○○万円を寄附しました。この寄附は内閣府認定の地域再生計画に基づく事業であり、当社マテリアリティ「○○」の外部パートナーシップ施策として位置付けられています。
社会的インパクト: ○○(定性的記述)
KPI: ○○(定量的指標)
関連SDG: SDG ○○・SDG ○○
関連開示フレーム: TCFD戦略/TNFD-Prepare/IFRS S2機会
よくある質問
Q: 寄附額が少額でも統合報告書に記載すべきですか?
金額の大小より、マテリアリティとの整合性が問われます。100万円の寄附でも戦略的に意義がある取り組みなら、記載の価値は十分にあります。逆に1,000万円の寄附でもマテリアリティと無関係なら、CSR活動一覧に簡潔に記載する方が、開示の一貫性を保ちやすくなります。
Q: 税軽減効果を開示すべきですか?
税軽減効果を前面に出すのは避けましょう。企業版ふるさと納税の本質は地方創生への貢献であり、税メリットは副次的な成果です。統合報告書では「寄附額」と「社会的インパクト」を主軸に記載し、税軽減については財務関連セクション(税務戦略など)で補足的に触れることで、ESG評価機関からの評価も高まります。
Q: 寄附先の社会的インパクトをどう測定すればよいですか?
寄附先の自治体と連携してKPIを設計するのが理想です。事業の進捗報告を受けた際、受益者数や整備面積、雇用創出数といった数値データを併せて収集し、報告書に反映しましょう。インパクト評価にはTheory of ChangeやSROI(社会的投資利益率)のフレームワークを活用する企業も増えています。
Q: 第三者保証は必要ですか?
企業版ふるさと納税の開示自体に第三者保証は必須ではありませんが、統合報告書全体の信頼性を高めるために、監査法人やコンサルによるGRI準拠確認やISAE3000準拠保証を取得する企業が増えてきています。寄附額は経理処理と紐づくため、財務諸表の監査過程で自動的に確認される項目でもあります。
Q: ESG格付け機関(MSCI・Sustainalytics等)にはどう開示すべきですか?
ESG格付け機関のアンケートや質問票では、「コミュニティ投資」「地域社会への貢献」の項目で企業版ふるさと納税の実施を明記しましょう。寄附額、寄附先、社会的インパクトをそれぞれ定量的に回答できるよう、記録を整備しておくことが不可欠です。格付け機関によっては、寄附先の事業が認定制度に基づくこと(ガバナンスの観点で高評価)をアピールできる点も活用できます。
まとめ: 統合報告書記載の3鉄則
- マテリアリティとの紐付け:単なる金額開示にとどまらず、戦略との整合性を明確に
- 社会的インパクトの開示:定性と定量の両面から成果を記述
- 開示フレームとの整合:GRI・SASB・ISSB・TCFD・TNFD・SDGsとの連携を意識
社内説得シリーズ: 財務部門への説明ガイド | 役員会プレゼンガイド | 法務・コンプラチェックリスト
開示実務の関連ガイド: IR開示ガイド(有報・統合報告書への記載実務)
CSRテーマ別ガイド: 気候変動・脱炭素 | 教育・こども | 防災・復興 | 農業・一次産業 | 生物多様性・ネイチャーポジティブ