本記事は、内閣官房・内閣府「地方創生」公式チャンネルで2022年8月25日に公開された講演(【講演】企業が地方進出する際に自治体に期待することとは?(株式会社Ruby開発)|内閣官房・内閣府「地方創生」公式チャンネル)の要点を、自動字幕をもとに編集部が要約・再構成したものです。登壇は株式会社Ruby開発 代表取締役社長の芦田秀行氏。以下はすべて登壇者の見解・経験に基づくものであり、逐語の全文転載ではありません。企業誘致の成否を分けるのは補助金の多寡ではなく、社員が定着できる住環境とコミュニティである——これが離島に本社を移したIT企業の実体験から導かれた中心的な主張です。
講演の主旨:企業誘致の鍵は「補助金」ではなく「住環境」
芦田氏は、Web系ソフトウェアの設計開発を手がける企業を率い、2018年に離島へサテライトオフィスを設置し、2021年9月には本社そのものを離島へ移したと述べています。前職を含め地方での新規拠点開設を多数経験してきた立場から、講演冒頭で結論を提示しています。
企業誘致を進めるうえで自治体に最も期待したいのは、インフラを含めた住環境の整備である——これが講演を通じた中心メッセージです。芦田氏は「社員が定着しない限り企業も縮小・撤退に向かう」とし、企業側のメリットよりも従業員側のメリットを優先すべきだと語っています。
離島という条件下での経験という前提はあるものの、芦田氏は「進出した地域だけの課題ではなく、全国の多くの地域が似た状況になりつつある」との見方を示しています。CSR・経営企画・地域連携の担当者にとって、企業が拠点を地方へ移すときに何を見ているかを知る手がかりになります。
社員目線の課題:住む場所・移動・食
芦田氏は、進出してみて直面した課題を「社員目線」で整理しています。いずれも実際に起きた出来事として紹介されています。
1. 住む場所の選択肢が乏しい
民間アパートがほとんどなく、あっても世帯向けが中心で、空き家・古民家も賃貸に出る物件が少ない。修繕しなければ住めない空き家が多く、家主が「貸す」より「売る」を望むケースが多いと述べています。お試し移住できる住まいがほぼないため、住民票を移さなければ入居できないという運用上の壁にも触れています。
採用と住宅供給のミスマッチも語られています。採用活動を進めても住む場所が確保できず、採用を見送らざるを得なかった事例があったとのこと。芦田氏は「空きがないなら事前に企業へ伝えてほしい」「一人採用するコストは中小企業にとって極めて重く、住居が確保できないなら採用自体を止める」と述べ、自治体と企業の情報共有の重要性を強調しています。
2. 交通インフラと移動コスト
鉄道路線がなく、レンタカーも限られた拠点では、生活必需品の買い出しや出張で対岸の都市まで車で長距離を移動する必要があると説明しています。社員数に対して車が足りず、共用車を週末に取り合う状況も起きたと述べています。要望として、カーシェアの仕組みや、免許を持たない若手社員のための乗合タクシーなどの検討を挙げています。移動にかかる交通費が積み上がり、企業の負担が大きいことも課題として示されています。
3. 食生活
地方で採用した新卒社員が、自炊が難しくレトルト食品中心の食生活になった結果、体調を崩し業務の習得にも影響が出た事例を紹介しています。芦田氏は、地元の方の手料理を提供する仕組みを試みたと述べ、外食や手作りの食事にアクセスできる環境の必要性を訴えています。
会社目線の気づき:定着は「半年が勝負」
続いて芦田氏は、会社側の視点から得た気づきを共有しています。
- 一人作業期間に注意:オフィス開設が先行する場合、社員が一人で作業する期間が長引くと、人格者であっても心身のバランスを崩しかねない。芦田氏は今後の拠点展開ではリモートワークを先行させ、2名以上が集まった段階で地域に拠点を構える方針だと述べています。
- お金では人は動かない:移住を促すために会社として強い決意で取り組んでも、社内から移住者が出ず定着しなかった経験を語り、金銭的インセンティブだけでは定着につながらないとの認識を示しています。
- 定着は半年が分かれ目:社員に移住前後の不安を確認したところ、地域住民とのつながりが定着の鍵だったといいます。地域のルールや行事に溶け込めるかどうかが、よそ者として受け入れられるかを左右する。一方で、つながりが深まると「不便さはあっても定着したい」と感じる社員も出てきたと述べています。
自治体への提言:地域の課題と「選ぶ理由」を前面に
芦田氏は、複数の自治体を視察した経験から、似たような提案が多く差別化が見えにくいと感じたと述べています。そのうえで次のように提言しています。
補助金制度やきれいなコワーキングオフィスがあると言われても、企業が「なぜその地域を選ぶのか」の理由が示されなければ判断材料にならない。地域の課題、あるいはこれから取り組みたいことを率直に伝えてほしい——芦田氏はこのように語っています(編集部による要約)。
社員に対しても「なぜその地域を選んだのか」という大義名分が必要であり、それがなければ社内の理解を得られないと述べています。視察を終える前に、その地域ならではの理由を企業へ伝え切ってほしいというのが芦田氏の要望です。
企業×自治体連携の選択肢としての企業版ふるさと納税
この講演が示すのは、企業が地方とつながる動機が「補助金」よりも「人が定着できる環境」と「その地域を選ぶ理由」にあるという点です。住環境やコミュニティづくりは自治体側の取り組みが中心ですが、企業の側からも地域に関与し、関係を深める手段はあります。その一つが企業版ふるさと納税です。
企業版ふるさと納税は、企業が自治体の地方創生プロジェクトへ寄附を行うと、寄附額の一定割合が法人関係税から税額控除される制度です。住環境整備や移住支援、地域の担い手育成といった事業を資金面で後押ししながら、企業と自治体の継続的な関係づくりのきっかけにもなり得ます。仕組みの基礎は企業版ふるさと納税とはで解説しています。寄附にとどまらない連携の全体像は、ピラー記事地方創生に企業が参画する方法や、連携手法をまとめた企業×自治体連携ハブをご覧ください。自社に合う関わり方を整理したい場合はAI診断も活用できます。
CSR・地域連携担当が持ち帰れる視点
本講演から、企業側・自治体側それぞれが意識したい論点をまとめます(いずれも芦田氏の見解に基づく要約です)。
| 論点 | 講演で示された視点 |
|---|---|
| 優先順位 | 企業のメリットより、社員が定着できるかを優先する |
| 住環境 | 住む場所の確保が誘致成否を分ける。採用と住宅供給の情報共有が必要 |
| 移動・生活 | 交通・食など日常生活のインフラが定着を左右する |
| 立ち上げ体制 | 一人作業期間を避け、複数名・リモート先行で立ち上げる |
| 選ばれる理由 | 補助金ではなく、地域の課題と「選ぶ理由」を率直に伝える |
よくある質問
Q. この講演は誰が、どこで話したものですか?
A. 内閣官房・内閣府「地方創生」公式チャンネルで2022年8月25日に公開された講演で、株式会社Ruby開発 代表取締役社長の芦田秀行氏が登壇しています。本記事はその内容を編集部が要約したものです。
Q. 講演で示された最も重要なメッセージは何ですか?
A. 企業誘致を進めるうえで自治体に最も期待したいのは、インフラを含めた住環境の整備であり、企業側より従業員側のメリットを優先すべきだ、という点です。社員が定着しなければ企業も縮小・撤退に向かうと芦田氏は述べています。
Q. 企業の地方定着で重要なポイントは何だと語られていますか?
A. 住む場所の確保、交通や食を含む生活インフラ、地域住民とのつながりが挙げられています。とくに定着は移住後の半年が分かれ目で、地域コミュニティに溶け込めるかが鍵だと芦田氏は述べています。
Q. 自治体が企業誘致で意識すべきことは何ですか?
A. 補助金や施設の有無ではなく、地域の課題やこれから取り組みたいこと、つまり「その地域を企業が選ぶ理由」を率直に伝えてほしい、というのが芦田氏の提言です。