企業版ふるさと納税では、金銭による寄附だけでなく物品(現物)による寄附も認められています。内閣府は「物品による寄附の手続きに係るQ&A」を公表し、具体的な手続きや注意点を示しています。

物品寄附(現物納付)の要点

  • 令和3年度税制改正で内閣府が「物品等による寄附に関するQ&A」を公表し、物品寄附が制度上明確に許容された(運用上の不確実性が解消)
  • 物品の時価(10万円以上)が寄附額として認められ、現金寄附と同じ最大約9割の税軽減を受けられる
  • 代表事例:大塚商会×愛媛・高知ほか12市町村圏の防災物納+災害時相互応援協定(令和5年度大臣表彰受賞自治体含む)/龍角散×秋田県八峰町のカミツレ・キキョウ国産化(4年連続・累計約6,933万円)
  • 仕訳パターンは「自社製品(帳簿価額<時価)」と「固定資産(帳簿価額>時価)」の2種で考える(経理ガイドの仕訳例へ
  • 令和7年度税制改正で令和9年度(2028年3月)まで延長確定したため、設備投資・工場移転と組み合わせた中期計画での活用が現実的

物品寄附とは

企業が保有する物品(機器、設備、資材など)を地方公共団体に寄附し、その物品が認定された地域再生計画に基づく事業に活用される場合、金銭による寄附と同様に企業版ふるさと納税の税額控除の対象となります。

令和3年度税制改正での「物品等による寄附」の制度的明確化

物品寄附は令和3年度税制改正の内閣府公表Q&Aによって条文上明確に許容されることが運用上確認されました。それまで「金銭以外の寄附は税額控除の対象になるのか」という稟議論点が残っていたメーカー・IT企業・建設業にとって、これは大きな転換点になりました。「物品等による寄附に関するQ&A(PDF)」では、寄附の対象物品・評価方法・受領書の発行・税額控除の申告手続きが具体例つきで整理されています。

さらに令和7年度税制改正で制度自体が令和9年度(2028年3月)まで延長確定したため、物品寄附は中長期の設備投資・工場移転計画と組み合わせて稟議に組み込めるようになりました。詳細は令和7年度税制改正での延長と稟議への影響を参照してください。

物品寄附の要件

  • 寄附する物品は、認定を受けた地域再生計画に基づく事業に活用されるものであること
  • 物品の時価(適正な評価額)が寄附額となる
  • 寄附額は10万円以上であること(金銭寄附と同じ下限)
  • 地方公共団体が物品の寄附を受け入れること
  • 寄附額は事業費の範囲内であること

現金寄附との比較

項目 現金寄附 物品寄附
寄附の形態 銀行振込・現金 物品(機器・設備・資材等)
最低金額 10万円以上 時価10万円以上
税軽減効果 最大約9割 同じ(時価ベースで適用)
評価方法 寄附金額そのまま 原則時価(新品は購入価格等)
向いている場面 汎用的・手続きがシンプル 自社製品・余剰設備の有効活用

物品寄附の手続き

  1. 企業と地方公共団体が物品寄附について事前に協議する
  2. 物品の適正な評価額を算定する(原則として時価)
  3. 地方公共団体が物品の寄附を受領する
  4. 地方公共団体が企業に受領書を発行する
  5. 企業は受領書を基に確定申告で税額控除を適用する

物品の評価方法

物品の寄附額は、原則として寄附時の時価で評価されます。新品の場合は購入価格、中古品の場合は減価償却後の帳簿価額等を基に評価されます。適正な評価が困難な場合は、見積書や市場価格等を参考に算定します。

物品寄附の活用例(実名・大臣表彰受賞自治体含む)

実際の大臣表彰事例・公開IR資料・自治体公式リリースから、当サイトが整理した代表的な物品寄附の活用例を紹介します。

  • 株式会社大塚商会 × 愛媛県・高知県内12市町村圏(令和5年度大臣表彰受賞自治体含む):南海トラフ地震に備える愛媛県5市町村・高知県8市町村に防災資機材を物納で提供。災害時相互応援協定の締結と合わせた「BCP×CSR×物納」一体型のスキーム。当サイト集計で同社は令和6年度48自治体に寄附(累計49自治体)。詳細は製造業の事例集(大塚商会×愛媛・高知ほか12市町村圏)を参照
  • 株式会社龍角散 × 秋田県八峰町:八峰町まち・ひと・しごと創生推進計画にカミツレ・キキョウ等の生薬国産化目的で令和3年度から令和6年度まで4年連続寄附(累計約6,933万円)。物品寄附を含む長期スキームの代表例で、製薬・食品・化粧品メーカーが「原料サプライチェーンの可視化(人権DD)×地方創生」を一つの寄附で同時達成できる類型。詳細は製造業の事例集(龍角散×八峰町ハーブの里構想)を参照
  • リコージャパン株式会社 × 奈良県葛城市:人材派遣型と組み合わせてSaaS・庁内DXアプリ群を物納に近いスキームで提供(IT企業の代表例)。詳細はIT企業の事例集(リコー×葛城市DX)を参照

このほか、IT機器、医療機器、農業機械、車両など、地方創生事業に必要な物品を寄附する形で活用されています。大臣表彰の受賞自治体・受賞企業の物品寄附事例大臣表彰受賞事例集に網羅されています。

物品寄附の仕訳パターン(経理担当者向け要約)

物品寄附の仕訳は、帳簿価額と時価の関係によって2パターンに分かれます。詳細な勘定科目・税効果会計・消費税の取扱いは経理ガイド「物品寄附(現物寄附)の仕訳パターン」で個別解説していますが、稟議書に書く前提となる骨子は以下のとおりです。

パターン 状況 骨子の仕訳 留意点
パターン1 自社製品を寄附(帳簿価額<時価) 借方「寄附金(時価)」/貸方「商品(帳簿価額)」+「受贈益(差額)」 差額は収益認識されるが、寄附金が全額損金算入されるため実質的な税効果影響は限定的
パターン2 固定資産を寄附(帳簿価額>時価) 借方「寄附金(時価)」+「固定資産除却損(差額)」/貸方「機械装置等(帳簿価額)」 時価10万円以上が要件。差額は除却損として計上

消費税は物品寄附も金銭寄附と同じく不課税取引として扱います。物品の仕入時に支払った消費税は通常の仕入税額控除で処理済みのため、寄附時に修正は不要です。寄附額がいくらまで税額控除されるかの試算はシミュレーション計算ツールで先に確認すると、稟議書と経理処理の数字がぶれません。

localgovs.net 編集部の独自集計コメント

(編集方針の詳細は当サイトについてを参照)

令和3年度の制度的明確化以降、物品寄附を稟議で通すうえで企業担当者が最初にぶつかる壁は「どの企業がどの自治体に何を物納したか」の実名事例の少なさです。当サイトが内閣府の地域再生計画認定一覧(令和6年度時点 8,464社)と各社IR資料・自治体公式リリースを横串でクロス集計したところ、物品寄附を伴うことが公開資料から確認できる代表事例は製造業(防災資機材・原料国産化・EV車両)/IT企業(SaaS・端末)/建設業(資材・重機)の3類型に収れんしています。

特に大塚商会×愛媛・高知ほか12市町村圏のスキームは、1社が同じ年度に48自治体へ寄附した実績として全国マルチサイト型の参考になります。中小製造業の場合は自社製品の物納+本社所在地ルールに該当しない自治体への単発寄附から始める3パターンが当サイトの推奨です。詳細は製造業の事例集(中小製造業向け3パターン)を参照してください。

なお、令和6年度の寄附実績631億円・8,464社のうち、物品を含む寄附の正確な内訳は内閣府公表データには項目立てがありません。当サイトでは引き続き各社IRと自治体公開資料から実例を補強していきます(最終更新: 2026-05-10)。

注意点

  • 経済的利益の供与の禁止は物品寄附でも同様に適用される。令和7年度税制改正で欠格期間が2年に延長されたため、自社製品の物納で過剰な販促便益が生じないよう設計が必要(便益供与禁止の要件と欠格期間2年
  • 物品の寄附額が適正に評価されていることが求められる(時価10万円以上・市場価額ベース)
  • 寄附した物品が事業以外の目的で使用されないよう、地方公共団体が適切に管理する必要がある
  • 金銭の寄附と物品の寄附を併用することも可能(同一事業に対する金銭+物品の合算寄附がスキーム上多い)
  • 役員会・取締役会で物品寄附を提案する際の論点整理は役員会プレゼン完全ガイドを参照

企業版ふるさと納税の制度全体については、企業版ふるさと納税とは?をご覧ください。

物品寄附×CSRテーマ別活用ガイド

自社製品・設備を活かした物品寄附は、CSRテーマと組み合わせることで社内稟議と対外アピール両方に使えます。