結論: 物納(物品寄附)の要件・評価額・仕訳の3点直答

  1. 要件:認定地域再生計画に基づく事業に活用されること+時価10万円以上+自治体が受入れに合意すること+事業費の範囲内であること。内閣府Q&A(令和4年11月14日改定)は手続きを明文化する一方、「物品の価額を特定することが難しいため、できる限り現金で受領するように」と明記している(A4-4-1)。物納は事業に欠かせない場合の例外的な方法と位置づけられている点が出発点。
  2. 評価額:原則寄附時の時価=「第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額」(A4-4-2)。自社製品なら通常の販売価格、備蓄用消耗品なら第三者から購入する場合の通常価額。帳簿価額・備忘価額による算定は、中古品等の客観的な流通価格が観察されない場合に限った例外であり、原則ではない。この時価がそのまま寄附額(税額控除の計算基礎)になり、税軽減は現金寄附と同じ最大約9割。
  3. 仕訳:帳簿価額と時価の関係で2パターン。自社製品(帳簿価額<時価)は「寄附金(時価)/商品(帳簿価額)+商品評価益等」(差額に「受贈益」を使うのは誤り。受贈益は受け取った自治体側の科目)、固定資産(帳簿価額>時価)は「寄附金(時価)+固定資産除却損/機械装置等(帳簿価額)」。寄附金は時価計上が共通。

企業版ふるさと納税では、金銭による寄附に加えて、物品(現物)による寄附も認められています。内閣府は「物品による寄附の手続きに係るQ&A」(令和4年11月14日改定)で手続きを明文化しています。ただし同Q&Aは物品の価額確定が困難であることを理由に「できる限り現金で受領するように」と明記しており、物納は寄附活用事業に当該物品が欠かせない場合の例外的な手段として設計されています。この前提を押さえずに稟議を起こすと、自治体側の受入協議で差し戻される可能性があります。

物品寄附(現物納付)の要点

  • 内閣府「物品による寄附の手続きに係るQ&A」(令和4年11月14日改定)が受領証・価額算定・管理方法を明文化。ただし同Q&Aは「できる限り現金で受領するように」とし、物納は当該事業に欠かせない場合の例外という位置づけ
  • 寄附年度に活用する分しか受領できない(現金と違い予算・決算上の繰り越しができないため。消耗品なら当年度内に使う分のみ/A4-4-4)。複数年度に跨る設備計画をそのまま物納に載せられない点が稟議の最大の落とし穴
  • 物品の時価(10万円以上)が寄附額として認められ、現金寄附と同じ最大約9割の税軽減を受けられる
  • 代表事例:大塚商会×愛媛・高知ほか12市町村圏の防災物納+災害時相互応援協定(令和5年度大臣表彰受賞自治体含む)/龍角散×秋田県八峰町のカミツレ・キキョウ国産化(4年連続・累計約6,933万円)
  • 仕訳パターンは「自社製品(帳簿価額<時価)」と「固定資産(帳簿価額>時価)」の2種で考える(経理ガイドの仕訳例へ)
  • 令和7年度税制改正で令和9年度(2028年3月)まで延長確定したため、設備投資・工場移転と組み合わせた中期計画での活用が現実的

物品寄附とは

企業が保有する物品(機器、設備、資材など)を地方公共団体に寄附し、その物品が認定された地域再生計画に基づく事業に活用される場合、金銭による寄附と同様に企業版ふるさと納税の税額控除の対象となります。

内閣府Q&A(令和4年11月14日改定)が定める物納の位置づけ

物納の手続きを定めているのは、内閣府「物品による寄附の手続きに係るQ&A(PDF)」(令和4年11月14日改定)です。同Q&Aは、現物寄附の取扱い・価額の算定・受領証・物品の管理と処分・議会への報告までを項目立てで整理しています。

ここで稟議の前に必ず押さえるべき前提があります。同Q&A のA4-4-1は、現金以外の資産であっても「事業に直接供することができるものであり、かつ、支出時の資産の価額を計算できるもの」であれば寄附として受領できるとしつつ、こう付け加えています。

一般に、物品による寄附については、当該物品の価額を特定することが難しく、現金による寄附と比較して、その寄附額を確定することが困難であると考えられるため、地方創生応援税制に係る寄附については、できる限り現金で受領するようにしてください。

出典: 内閣府「物品による寄附の手続きに係るQ&A」(令和4年11月14日改定)A4-4-1

つまり物納は「現金寄附と並ぶ対等な選択肢」ではなく、当該寄附活用事業に当該物品が欠かせない場合の例外的な方法として設計されています(A4-4-2も「できる限り現金で受領することが望ましいところですが…当該物品による寄附が当該事業に欠かせない場合もある」という書き出しです)。したがって自治体との事前協議では、「なぜ現金ではなくこの物品でなければ事業が成立しないのか」を説明できるかどうかが最初の関門になります。自社製品のPRを主目的に物納を提案すると、この関門で差し戻されます(便益供与禁止の要件と欠格期間2年も併せて確認してください)。

さらに令和7年度税制改正で制度自体が令和9年度(2028年3月)まで延長確定したため、物品寄附は中長期の設備投資・工場移転計画と組み合わせて稟議に組み込めるようになりました。詳細は令和7年度税制改正での延長と稟議への影響を参照してください。

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物品寄附の要件

  • 寄附する物品は、認定を受けた地域再生計画に基づく事業に活用されるものであること
  • 物品の時価(適正な評価額)が寄附額となる
  • 寄附額は10万円以上であること(金銭寄附と同じ下限)
  • 地方公共団体が物品の寄附を受け入れること
  • 寄附額は事業費の範囲内であること

現金寄附との比較

項目 現金寄附 物品寄附
寄附の形態 銀行振込・現金 物品(機器・設備・資材等)
最低金額 10万円以上 時価10万円以上
税軽減効果 最大約9割 同じ(時価ベースで適用)
評価方法 寄附金額そのまま 原則時価(新品は購入価格等)
向いている場面 汎用的・手続きがシンプル 自社製品・余剰設備の有効活用

物品寄附の手続き

  1. 企業と地方公共団体が物品寄附について事前に協議する
  2. 物品の適正な評価額を算定する(原則として時価)
  3. 地方公共団体が物品の寄附を受領する。寄附年度に活用する分に限って受領する必要がある(物品寄附は現金と異なり予算・決算上の繰り越しができないため/A4-4-4)
  4. 地方公共団体が企業に受領証を発行する(地域再生法施行規則第14条・別記様式第3)。物品寄附の場合は参考様式に従い、物品の品名・数量・使用用途を追記した受領証が交付される(A4-4-3)
  5. 企業は受領書を基に確定申告で税額控除を適用する

物品の評価方法

物品の寄附額は、税法上、寄附の時におけるその物品の価額とされ、その価額は「一般的に第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額」によることとされています(内閣府Q&A A4-4-2)。受領側の地方公共団体が第三者から同じ物品を購入する場合に通常支払う金銭の額が基準になります。

寄附する物品の性質 価額の算定方法(A4-4-2)
自社が製造・販売している製品 その製品の通常の販売価格
自社が販売していない物品(災害時の備蓄用消耗品等) 当該物品を第三者から購入する場合に通常支払う価額
一般に販売されていない物品(土地など) 近隣の売買実例価額・不動産鑑定士の鑑定評価額・公示価格等を総合勘案、あるいは路線価・固定資産税評価額等を参照して算定
自社の事業用・備蓄用に供されていた物品で、中古品等の販売市場に客観的な流通価格が観察されないもの 課税上の弊害がない限り合理的な方法で算定して差し支えない。地方公共団体が合理的と認める限り、寄附者側の帳簿価額や備忘価額による算定も「合理的な方法」に含まれる(注記)

実務上の注意点は、「中古品だから帳簿価額(減価償却後の簿価)でよい」という理解は誤りだという点です。帳簿価額による算定が認められるのは、あくまで客観的な流通価格が観察されない場合の例外としてです。中古市場が成立している物品(車両・PC・建設機械など)は、まずその市場価格で評価する必要があります。

物品寄附の活用例(実名・大臣表彰受賞自治体含む)

実際の大臣表彰事例・公開IR資料・自治体公式リリースから、当サイトが整理した代表的な物品寄附の活用例は次のとおりです。

  • 株式会社大塚商会 × 愛媛県・高知県内12市町村圏(令和5年度大臣表彰受賞自治体含む):南海トラフ地震に備える愛媛県5市町村・高知県8市町村に防災資機材を物納で提供。災害時相互応援協定の締結と合わせた「BCP×CSR×物納」一体型のスキーム。当サイト集計で同社は令和6年度48自治体に寄附(累計49自治体)。詳細は製造業の事例集(大塚商会×愛媛・高知ほか12市町村圏)を参照
  • 株式会社龍角散 × 秋田県八峰町:八峰町まち・ひと・しごと創生推進計画にカミツレ・キキョウ等の生薬国産化目的で令和3年度から令和6年度まで4年連続寄附(累計約6,933万円)。物品寄附を含む長期スキームの代表例で、製薬・食品・化粧品メーカーが「原料サプライチェーンの可視化(人権DD)×地方創生」を一つの寄附で同時達成できる類型。詳細は製造業の事例集(龍角散×八峰町ハーブの里構想)を参照
  • リコージャパン株式会社 × 奈良県葛城市:人材派遣型(在籍出向)と組み合わせてSaaS・庁内DXアプリ群を物納に近いスキームで提供(IT企業の代表例)。詳細はIT企業の事例集(リコー×葛城市DX)を参照

その他、IT機器、医療機器、農業機械、車両など、地方創生事業に必要な物品を寄附する形で活用されています。大臣表彰の受賞自治体・受賞企業の物品寄附事例は大臣表彰受賞事例集に網羅されています。

なお、物品寄附(モノの提供)と人材派遣型(ヒトの出向)は、いずれも金銭以外で地方創生に貢献できる類型として相性がよく、同一自治体への併用も可能です。自社のリソースに余剰人材がある場合の在籍出向スキーム・給与社保の経理処理・稟議論点は企業版ふるさと納税 人材派遣型の仕組みと経理処理ガイドで個別に解説しています。

物品寄附の仕訳パターン(経理担当者向け要約)

物品寄附の仕訳は、帳簿価額と時価の関係によって2パターンに分かれます。詳細な勘定科目・税効果会計・消費税の取扱いは経理ガイド「物品寄附(現物寄附)の仕訳パターン」で個別解説していますが、稟議書に書く前提となる骨子は以下のとおりです。

パターン 状況 骨子の仕訳 留意点
パターン1 自社製品を寄附(帳簿価額<時価) 借方「寄附金(時価)」/貸方「商品(帳簿価額)」+「商品評価益等(差額)」 差額は収益認識されるが、寄附金が全額損金算入されるため実質的な税効果影響は限定的。差額の科目を「受贈益」とするのは誤り(受贈益は物品を受領した自治体側の科目)
パターン2 固定資産を寄附(帳簿価額>時価) 借方「寄附金(時価)」+「固定資産除却損(差額)」/貸方「機械装置等(帳簿価額)」 時価10万円以上が要件。差額は除却損として計上

消費税は物品寄附も金銭寄附と同じく不課税取引として扱います。物品の仕入時に支払った消費税は通常の仕入税額控除で処理済みのため、寄附時に修正は不要です。寄附額がいくらまで税額控除されるかの試算はシミュレーション計算ツールで先に確認すると、稟議書と経理処理の数字がぶれません。

localgovs.net 編集部の独自集計コメント

(編集方針の詳細は当サイトについてを参照)

内閣府Q&A で手続きが明文化されて以降、物品寄附を稟議で通すうえで企業担当者が最初にぶつかる壁は「どの企業がどの自治体に何を物納したか」の実名事例の少なさです。当サイトが内閣府の地域再生計画認定一覧(令和6年度時点 8,464社)と各社IR資料・自治体公式リリースを横串でクロス集計したところ、物品寄附を伴うことが公開資料から確認できる代表事例は製造業(防災資機材・原料国産化・EV車両)/IT企業(SaaS・端末)/建設業(資材・重機)の3類型に収れんしています。

特に大塚商会×愛媛・高知ほか12市町村圏のスキームは、1社が同じ年度に48自治体へ寄附した実績として全国マルチサイト型の参考になります。中小製造業の場合は自社製品の物納+本社所在地ルールに該当しない自治体への単発寄附から始める3パターンが当サイトの推奨です。詳細は製造業の事例集(中小製造業向け3パターン)を参照してください。

なお、令和6年度の寄附実績631億円・8,464社のうち、物品を含む寄附の正確な内訳は内閣府公表データには項目立てがありません。当サイトでは引き続き各社IRと自治体公開資料から実例を補強していきます(最終更新: 2026-10-14)。

注意点

  • 経済的利益の供与は物品寄附にも適用される。令和7年度の税制改正で欠格期間2年が創設されたため、自社製品を物納する際は、過剰な販促便益が生じないよう設計することが不可欠です(便益供与禁止の要件と欠格期間2年)。
  • 物品の寄附額は、時価10万円以上かつ市場価額に基づいて適正に評価されている必要があります。
  • 寄附した物品が事業以外の目的で使われないよう、地方公共団体による適切な管理が求められます。
  • 金銭と物品の寄附を併用することも可能です。同一事業に対する金銭と物品の合算寄附が、スキーム上ではより多く認められています。
  • 役員会や取締役会で物品寄附を提案する際の論点整理については、役員会プレゼン完全ガイドをご参照ください。

企業版ふるさと納税の制度全体については、企業版ふるさと納税とは?をご覧ください。

物品寄附×CSRテーマ別活用ガイド

自社製品や設備を活用した物品寄附は、CSRテーマと組み合わせることで、社内稟議の根拠にも、対外的なアピールにも役立ちます。

よくある質問

Q: 企業版ふるさと納税で物納(物品による寄附)はできますか?

できますが、例外的な方法です。内閣府「物品による寄附の手続きに係るQ&A」(令和4年11月14日改定)は、現金以外の資産であっても事業に直接供することができ、かつ支出時の資産の価額を計算できるものであれば寄附として受領できるとしています。ただし同Q&Aは、物品はその価額を特定することが難しく寄附額の確定が困難であるため「できる限り現金で受領するようにしてください」と明記しており(A4-4-1)、物納は当該寄附活用事業に欠かせない場合に限って想定されています。

要件は、①寄附する物品が認定を受けた地域再生計画に基づく事業に活用されること、②物品の時価が10万円以上であること(金銭寄附と同じ下限)、③地方公共団体が物品の寄附を受け入れること、④寄附年度に活用する分に限って受領すること(物品寄附は予算・決算上の繰り越しができないため/A4-4-4)の4点です。税軽減効果は現金寄附と同じく最大約9割で、時価ベースで適用されます。

Q: 物納する物品の評価額はどう決めますか?

税法上、寄附金の額はその寄附の時における物品の価額とされ、その価額は一般に第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額によることとされています(A4-4-2)。自社が製造・販売している製品ならその製品の通常の販売価格、自社が販売していない備蓄用消耗品等なら第三者から購入する場合に通常支払う価額、土地のように一般に販売されていない物品なら売買実例価額・鑑定評価額・公示価格・路線価・固定資産税評価額等を参照して算定した価額になります。

中古品等の販売市場に客観的な流通価格が観察されない場合に限り、課税上の弊害がなければ合理的な方法による算定が認められ、帳簿価額や備忘価額による算定もその範囲に含まれます。したがって「中古品は減価償却後の帳簿価額で評価する」という理解は誤りで、帳簿価額の使用は例外です。この価額が10万円以上である必要があり、価額がそのまま寄附額として税額控除の計算基礎になります。

Q: 物品寄附の仕訳はどうなりますか?

帳簿価額と時価の関係によって2パターンに分かれます。①自社製品を寄附する場合(帳簿価額<時価)は、借方「寄附金(時価)」/貸方「商品(帳簿価額)」+「商品評価益等(差額)」。②固定資産を寄附する場合(帳簿価額>時価)は、借方「寄附金(時価)」+「固定資産除却損(差額)」/貸方「機械装置等(帳簿価額)」。いずれも寄附金は時価で計上する点が共通です。

①の差額の科目に「受贈益」を充てるのは誤りで、受贈益は物品を受け取った側(地方公共団体)の科目です。詳細な勘定科目・税効果会計・消費税の取扱いは経理ガイドで個別解説しています。